原初知識モデル

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■研究テーマ一覧

原初知識モデルコアの教育研究


原初知識モデル教育研究コアでは,知識創造・伝承の基盤となるコミュニケーションについて,状況や身体性に依存した暗黙的な側面に焦点をあてて,解明と支援技術に関わる研究教育および人材育成を行う.参加専攻の特色を生かし,次の話題を中心にした取り組みを行う.

  1. 人間のような聴覚を持つロボットの実現に資する音環境理解コンピューティング
  2. コンピュータビジョンを使った人間行動の獲得
  3. 人間と状況に応じたコミュニケーションができる会話的人工物の構成
  4. 感覚の知覚メカニズムの解明
  5. 原初知識の創造・伝承に関する計算論的性質の解明





1. 人間のような聴覚を持つロボットの実現に資する音環境理解コンピューティング


ロボットなどのシステムが人間と実世界で共生をしていくためには,人間と同じような聴覚機能の実現が重要な課題である.実世界で生ずる音は音声に加えて,音楽や環境音など多種多様な音,それらの混合音であるので,混合音を聞き分けて環境を認識・理解する音環境理解コンピューティングが不可欠となる.音環境理解の主たる3つの機能は,音源定位,音源分離,分離音認識である.また,いろいろなロボットやシステムに応用可能なように使用環境に依存せず,事前学習の少ない手法が必要である.私たちはこの2年間でロボット聴覚オープンソフトウエアHARKを開発し,複数のロボットに搭載してきた.複数話者の料理の同時注文を聞き分ける機能,口じゃんけんの審判機能などを有するロボットを構築し,「聖徳太子ロボット」の可能性を実証してきた.また,音楽を自分の耳で聞き分け,リズムに合わせて動作をし,歌う音楽ロボットにも応用してきた.今後,音声対話システムへの展開,音響信号から記号(擬音語)を獲得し,文脈に意味付けする発達論的コミュニケーション,乳幼児の音声バブリングによる言語の獲得,さらには,フィールド情報学への展開などに取り組んでいく.





2. コンピュータビジョンを使った人間行動の獲得 ― ヒューマンコミュニケーションの高度化を目指した3次元ビデオによる人間の行為・動作・仕草・表情の分析


ヒューマンコミュニケーションにおいて,ノンバーバルな要素が大きな役割を果たしていることは一般に良く知られている.一方,専門的知識や技能を持たない一般の人々が高度情報化社会で暮らすには,情報検索・分析・表現・発信などを行うための情報システムが人に優しくなければならない.本研究では,人に優しい情報システムが備えるべき機能としてノンバーバル・ヒューマンインターフェイスを取り上げ,3次元ビデオ技術を基にした人間の行為・動作・仕草・表情の分析を通じてノンバーバル・ヒューマンコミュニケーションの高度化を目指す.これまでの研究によって3次元ビデオ撮影・表示技術については,人間の3次元動作を空間解像度数mm,時間解像度30フレーム毎秒で測ることができる.本研究では,撮影された3次元ビデオを解析し,人間の(意図的)行為・(目的に合わせた)動作・(無意識的)仕草・表情を3次元的かつそのダイナミクスも含めて分析する技術の開発を行う.





3. 人間と状況に応じたコミュニケーションができる会話的人工物の構成 ― 会話知識のモデル化とデザイン


知識創造・伝承の基盤となるコミュニケーションにおける状況や身体性に依存した暗黙的な側面を知覚し,積極的に利用することのできる会話的人工物の構成に関わる新技術の研究開発をめざす.

 これまでの研究で,意図的コミュニケーションの実装,相互適応エージェントの研究,会話エージェントの構成と実証,状況依存性を取り入れた知識マネジメントシステムの構成を研究テーマとしてとりあげて,基礎から応用におよぶ原初知識モデルの研究推進の手がかりをつくった.
 意図的コミュニケーションの実装については,EICAとよぶマルチエージェント型のアーキテクチャをもちいた意図的コミュニケーション実現手法を考案し,会話データから統計的に会話的人工物の動作を生成できる可能性があることを確認した.
 相互適応エージェントの研究では,人と人,人とWOZ (Wizard of oz)ロボット,人と学習ロボットとステップを進めることにより相互適応能力(コミュニケーションを積み重ねながら,参加者たちの相互協調により少しずつ高度なコミュニケーションを構成する能力)をもつロボットを実現する方式を提案した.また,この提案に基づいて研究を進めるために必要なコミュニケーション計測技術を開発した.
 会話エージェントの構成と実証の研究では,GECAとよぶ会話エージェント構築のための汎用プラットフォームを実現し,その上に,いくつかの実証実験のための会話エージェントを構成し,プラットフォームとしての有用性を実験的に示した.
 状況依存性を取り入れた知識マネジメントシステムの研究では,画像認識手法とセンサ技術を組み合わせて,対象のCADデータを用いてタブレットPCで高速かつ頑健にオブジェクト認識を行うことのできる,状況認識のための強力なエンジンを開発した.





4. 感覚の知覚メカニズムの解明 ― 生命個体が使う情報の形式を探る


体の外には,色や音,甘さや,におい,暑さ・寒さがあり,それを五感でとらえると考えられている.だが体の外は,電磁波,空気波,化学物質,温度やものがある物理世界である.では,色や音,暑さ・寒さはどこにあるのだろうか.ペンフィールドは,意識がある人の脳を針で電気刺激した時の感覚を聞いた.すると,音が聞こえた,手や顔が触れられた,とその人は答えた.色や音,暑さ・寒さは,脳が生む仮想現実と言えそうである.では,物理世界と仮想現実はいかに関係づけられるのだろうか.低温受容器は温度が閾より下がったときにだけ活動電位を誘発する.そこで低温受容器は,皮膚温が閾より低いかどうかを比べ,低い時に,脳の標的細胞を駆動する信号として活動電位を出すスイッチだとの見方に達した.皮膚温が低下したときには,皮膚が冷たいとの感覚が生まれる.そこで,低温で生じたインパルスで脳の標的細胞が活性化すると「情報」が発現し,皮膚が冷たいと感じるといえる.これはペンフィールドの実験結果と対応する.標的に蓄えた「情報」を,単細胞生物をモデルとして明らかにする研究を始めている.





5. 原初知識の創造・伝承に関する計算論的性質の解明 ― 数学的知識と計算論的学習の関係の解明


数学は伝統的に演繹的な推論によって構築されているが,定理や公理の中には帰納的な推論として手続き的に解釈できるものが見つかっている.例えば,多項式環に対するHilbertの基底定理や,それを導くために用いられている最小値存在原理などである.帰納的な推論とは,演繹的な推論の逆,つまり,結論となる具体的な事実やデータからそれらを説明する一般的な法則性を導く手続きを指す.帰納的な推論を手続きや計算の視点から研究する分野は計算論的学習理論と呼ばれている.データを信号と捉え,さらに一般的な法則性を信号の意味と捉えると,計算論的学習理論は,信号の送り手がそこに託した意味を受け手が復元する手続きの理論と捉えることもできる.つまり,数学的な知識の中には,知識の創造や伝承の過程が埋め込まれているものがあることになる.本研究では,超限順序数と計算論的学習の関係,トポロジーと計算論的学習の関係,計算可能な実数関数と計算論的学習の関係などを解明することにより,数学的知識の創造と伝承の過程を解明することを目標にしている.