2007年08月26日

戦中の話

帰省中、祖母から八十年の人生をダイジェストで聞かされた。かなり濃かった。

その中でもう十回くらい聞かされた話があって、内容を暗記してしまったので、せっかくなので書き記しておくことにする。

祖母が秋田県本荘市で家政学校に通っていた頃の話である。当時は小学校の後に高等小学校が二年あって、それから進路が分かれる。祖母の場合は二年間、家政学校で学んだ。つまり、今で言うところの中学三年から高校一年くらいの年頃の話。

家政を学ぶということで、当然女子校である。しかし、昭和初期という時代背景を反映してか、初代校長は滋賀県から呼んだ長刀の女教師だったらしい。設立当初は袴と縞の上着が制服だったそうだが、祖母の入学した年からセーラ服になった。秋田のあたりには大正デモクラシーの気風が都会より遅れてやってきたとかで、昭和とはいえ比較的自由な雰囲気の中で祖母は学んだという。

学校に下村先生という熱血漢の先生がいて、女子生徒の間で絶大な人気があった。祖母の話に何度も出てくる親友のAさんなどは、この下村先生にぞっこんだったらしい。師範学校出の若い先生だったそうだが、何が専門であったかは祖母に聞いてもよく憶えていないという。いろいろ教えてくれたそうだ。教師数が少なくて、いくつかの教科を掛け持ちしていたのかも知れない。とにかく生徒を激励し、自信を持たせようとする前向きな先生だった。

当時の校長は祖母の母方の叔父さんだったのだが、下村先生があんまり生徒に人気があるということでやきもちを焼いていたらしく、家に来るたびに祖母を呼び出して、彼の噂を聞いたりしていたそうである。

ところが折しも戦争が激しくなってきた。男であれば出征しなくてはならない。下村先生にも命令が下った。

それで自分の写真の裏に短い文章を書いて、祖母に渡したのだそうである。もちろん、他の生徒にも渡したのではないかと思う。祖母が今でもそらんじているのは、以下のような文章である。


おのこやも 空しかるべき 万代に 語り継ぐべき 名は立てずして
おおいにやれ。正しさと豊かさのため。あくまで歩め。
時々来てくれ。母の世話を頼む。さらば。


短歌は山上憶良の作。後世に伝える名を残せずに死んでいくのは悲しいものだ、というような意味。

祖母に言わせると、

「あの時代に『豊かさ』ってのがねぇ。他の人は言わなかったわよねぇ」

豊かさへの憧れを口にすることが憚れた時代なのである。

いや、それ以前に、戦争に行って死ぬことが空しいとか言ってる時点で問題がありそうだが、下村先生はそれで戦地に赴き、戦死したのだそうである。

昔は多くの人があっけなく死んだ。

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2007年04月27日

バイオ燃料

今月末から首都圏では植物由来の燃料、バイオエタノールを数%配合したガソリンが一般のガソリンスタンドでも売られるようになったとのこと。新しい時代の到来を予感させるニュース。

バイオ燃料は原料が植物のため、その炭素は元々大気中にあった二酸化炭素から来ている。そのためいくら利用しても大気中の二酸化炭素の総量を増やさず、温暖化防止に効果があるのではないかと期待されている。これに関連して先日、学内で行われたバイオ燃料に関する講演を聞いてきて、なかなか面白かったので覚え書きしてみる。

講演者はエネルギー科学研究科の坂志朗教授。超臨界状態を利用してバイオ燃料を作る研究をしている。

水のイオン積は温度と共に増加するため、超臨界状態では 10-10 くらいになっている。だから中性なのにpHが5とかいうことになって、触媒としての性質を示すようになる。さらに、誘電率つまり極性も低下する。実験装置の覗き窓から見てみると、温度が上がるにつれて極性溶媒と非極性溶媒が一相になって混じり合うのが観察できるらしい。このような超臨界状態の特徴を活かしてセルロースを加水分解したり、バイオディーゼル燃料を作るというのが坂先生の研究内容。

バイオディーゼル燃料というのはディーゼルエンジンで使うことのできる植物由来の燃料のことだが、一般に使われているのは脂肪酸メチルエステル。油脂や脂肪酸では粘度が高くて使い物にならないが、メチルエステルになると重油や軽油などと似た物性を示すようになって、ディーゼルエンジンに入れて使えるとのこと。

油脂とメタノールのエステル交換には従来はアルカリ触媒法や酸触媒法、リパーゼ酵素法というのが使われてきたそうだが、たとえば家庭から出る廃油などは遊離脂肪酸の割合が高く、アルカリ触媒は中和してしまいあまり使えない。そこで坂先生の研究室で開発されたのが、超臨界あるいはそれに近い高温でメタノールと脂肪酸を混合し、反応させるという「超臨界メタノール法」。ただし、今のところ実験室レベルで実現されただけで、実用化はまだ。

京都市はバイオディーゼル燃料の利用に関してはかなり進んでいるようで、燃料の100%がバイオディーゼルという市バスが何台か走っている。一般家庭や食品業者から回収された廃油がゴミ処理場内にあるプラントで加工されている。地球温暖化防止会議をきっかけにして、開発に取り組んだそうである。

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2007年04月22日

オープンソース・ロボット

先週行われた研究会。オーストラリアから来ている留学生のCラッドが会議の参加報告をしていた。

CラッドはオーストラリアのLinux関係の団体の会長だとかで、ビデオブログを研究している鬼プログラマである。報告した会議もシドニーで開かれたLinuxコンファレンスで、本人いわく「とても多くのインスピレーションを受けた」とのこと。

数々の発表を聞いてきた中で「RepRap」というプロジェクトを気に入った様子で、研究会のスライドで紹介していた。

台の上でポリマーを溶かし、部品を作って、自分自身を組み立てていくロボット。RepRapというのは Replicating Rapid-prototyper の略らしい。まだすべての部品を作ることはできないので、開発の初期段階。

RepRap

ちょっといじれば他の物も作ることができるため、自分自身を増やしながら様々な工業製品を作り出していく夢のロボット。これを使えば貧しい国々でも産業を興すことができる。誰でも自分自身の工場を持つことができる。という風に、将来展望はやけに壮大。

しかし、これはどう見てもハードウェアの話。なぜこんな発表がLinuxの会議で行われるのか。

そもそも自己複製する機械という考え方自体、おそらく大昔からあるし、他にもやっている所がありそうである。あえて今、独自に作ろうとする意味は?

疑問に感じたのだが、しばらく考えて、オープンソースというのがポイントなのだろうなと思い至った。

実際、ウェブサイトを見てみると、「RepRapの作り方はオープンソースで公開されている」と書かれている。

誰もが自由にRepRapを作り、改良し、増やしていく。プロジェクトのスローガンは Wealth without money(お金無しで豊かに)らしい。機械の自己増殖による自給自足の実現。

産業用機械を企業が所有している限り、富は企業に集まる一方である。だからオープンソースで機械を作るようにすれば……。

いったいどうなるのでしょうね。

機械ばかり増えまくって恐ろしいことになったりしないのか、と心配するのは僕だけだろうか。

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2007年04月18日

不老不死

今年も研究室にいろいろ異色な人が入ってきたのだが、修士課程から来たS氏の場合、これまでの研究の内容がかなり異色で興味深い。理学部で生化学の研究をしていたとのこと。新歓コンパの席でいろいろ話を聞かせてもらった。

染色体の末端にはテロメアという部分があり、細胞分裂のたびに短くなっていくのだが、これが短くなり過ぎると分裂は止まる。ヘイフリック限界というやつ。生殖細胞では逆転写酵素を使ってテロメアの延伸が行われるそうだが、体細胞は受精の瞬間から分裂できる上限が決められている。テロメアはいわば生物の最大寿命を決めるカウンター。このカウンターを無制限に伸ばすことができれば、不老不死が実現される――というのは短絡的だが、細胞分裂が止まってしまえば生物はやがて朽ちる運命なので、不老不死実現のための条件であることは確か。

逆に、がん細胞が無制限に分裂を続けるのはテロメアの部分がおかしくなっているからではと言われているらしい。テロメア研究の応用としてはこちらの方が重要。

異常化したテロメアの働きを抑える薬品を設計するためには、まずはその立体構造を明らかにしなくてはならない。具体的にはT-ループという輪っかの構造をしているそうだが、DNAを構成する塩基アデニン・チミン・グアニン・シトシンにはそれぞれ個性があり、それが巧みに利用されて作られているらしい。たとえばチミンの繰り返しが見られるが、これはピリミジン骨格で小さく、折れ曲がりやすいためと言われている。すなわちATGCの配列が単なる符号以上の意味を持っている。S氏の学部時代の研究ではその構造の一部を明らかにしたそうである。

人類の長年の夢のひとつ、不老不死に繋がる一歩。人類は着実に進歩している。

「たまに残念に思うことがあるんだよね。あと百年遅く生まれてたら、不老不死でしょ。惜しかった」 と僕。

「いや、百年後は無理ですよ」 とS氏。「たとえ細胞分裂が無限に続くとしても、時間の経過と共に遺伝子に損傷が蓄積されていきますから。それで体がおかしくなって、死んでしまう。テロメアが伸びただけじゃ不老不死にはならない」

「なるほど。でも、単細胞生物はいつまでも生き続けるよね。遺伝子は損傷を受ける一方だと思うけど」

「単細胞生物の場合、損傷を受けたやつは死滅して、損傷を受けなかったものだけが生き残る仕組みです」

バックアップを取りまくって、どれかが生き残ればいいというわけか。

「じゃぁ、人間の体でも損傷でダメになるのを上回る速度で細胞分裂が行われるようにして、損傷を受けた細胞は駆逐される仕組みが作られたら……」

「うーん」 と考え込むS氏。

それだけの技術の実現は百年後では無理かも知れないが、五百年後なら……。

「それより先に、人間の意識を機械に移せるようになったりするんじゃないですか」 とT島先生が横からコメント。

「あ、それはありそうですね。機械に転写された自分を自分と思えるのかという問題はありますが……」

「それに、その時期には人間の自己意識も変わっているかも知れない」 とS氏。

「なるほど。まるで細菌のように、個人というものがどうでもよくなっているかも知れないな」

「エヴァの人類補完計画ですね」

細胞分裂からいきなりエヴァンゲリオンの話になった。

「そういう話なの?」

「そういう解釈もできるという」

不老不死が先か、自我概念の超克が先か。悠久の未来の話を肴に、酒の席はやや特殊な盛り上がり方をしたのであった。

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2007年02月10日

メカニズム・デザイン

昨年末の忘年会にて小山先生の奥さんがNTTと九大で行っていた研究について聞き、なかなか面白いと思ったのですが、その専門家である松原繁夫先生が今年から助教授として石田研究室に来られ、今週の専攻会議でお見かけしました。

どんな研究かというと、メカニズムデザインと呼ばれる分野です。僕は専門家ではないのでうまく説明できるか分からないのですが、個々の参加者(エージェント)が一定の基準(欲求)に従って行動すると前提した時、全体として最大の利益が得られるような全体の枠組み(ルール)をデザインすること。

極めて簡単な例を考えると、たとえば二人でケーキを切り分ける状況。どちらもより多くのケーキが欲しいとして、なるたけ手間をかけず、両者が納得の行く形で分けるにはどうしたらいいか。計りやものさしはその場に無いとします。

おそらく多くの人が使う方法は、一人がケーキを切り分けて、もう一人が自分の欲しい方(大きいと思う方)を選ぶ、という形ではないでしょうか。

適切なルールを作ることで、二人とも納得の行く結果が得られることの一例です。

もうひとつ、オークションのデザインというのがあります。Yahoo!オークションのように、値段をどんどん吊り上げていく方式はイングリッシュオークション(English auction)と呼ばれ、かなり普及しているのですが、なにせ落札者が決まるまでに何度も金額の上乗せが行われるため、時間と手間がかかります。

一方、公共事業でお馴染みの入札というのは、各人が希望金額を隠した状態で箱に入れて、一番高い値段を付けた人が落札するという仕組み。シールドオークション(sealed auction)と呼ばれたりするようです。これは一瞬で決着がつきます。

ダッチオークション(Dutch auction)というのは売り手が値段をどんどん下げていき、その値段で買ってもいいと思った人が宣言することで落札されるという方式。これも一瞬で決着がつくのがメリットです。

シールドオークションとダッチオークションの場合、「ライバルがどれくらいの値段を付けるだろうか」という憶測に基づいて金額を決めるため、落札価格が高くなりがちです。(売り手にとっては嬉しいことですが)。

ここで、ビックレーオークション(Vickrey auction)という、まだあまり使われていない方式があります。

各人が希望金額を隠した状態で入れて、一番高い値段を付けた人が落札するという所までは入札と同じですが、落札金額は落札者が入れた金額ではなく、二番手の人が付けた金額にしよう、という手法です。

奇妙な方式に思えますが、一定の条件が課されると、イングリッシュオークションと(ほぼ)同じ結果が得られるというのが面白い所です。そもそもイングリッシュオークションではどのように決着がつくかというと、最終的に二人が競い合い、どちらかがあきらめた時に終わります。最後の方では上乗せの金額がどんどん小さくなっていき、1円に収束するとしたら、落札金額は「二番手の人が付けた金額+1円」。つまり、ビックレーオークションの結果とは1円違うだけ。

競争者が三人以上いたり、商品が多数ある場合も考慮すると、それほど簡単な話ではないのですが、いろいろな条件や仮定を置くことでうまく機能することが証明できる。その場合、一瞬で決着がつくため、イングリッシュオークションよりも格段に効率がいい。だったらもっとビックレーオークションを活用してもいいのではないか。

こんな風に、多くの人々を納得させる仕組みやそれが成立するための条件などを考える研究を「メカニズムデザイン」と呼ぶようです。

その第一人者が横尾真先生であり、以前はNTTで研究されていたのですが、その後九大に移られました。小山先生の奥さんも横尾先生にくっついて九大に移り、博士号を取って今はポスドクをしているそうです。そして松原先生も同じグループから来られたのです。

ケーキの切り分けやオークションに限らず、いろいろな仕組みに使えそうなアプローチです。たとえば選挙とか人事評価とか社会保障とか。皆が納得することができて、かつ無駄のないデザインができるのではないか。

経済学に似ている所もありますが、現状を分析するのではなく、新しい仕組みを設計していくという点に特徴があるのでしょう。

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2007年01月22日

目隠しオセロ、触れる時計、黒いまな板

大丸京都店の催し物会場で視覚障害者福祉啓発事業「あい・らぶ・ふぇあ」というイベントが開かれていました。

視覚障害者の人々が使う道具に触れて、理解を深めようというイベントです。京都ライトハウスという法人が中心となり、毎年行われているようです。

微妙に手作り感あふれていますが、内容はとても充実していました。

針に触って時間を確かめられる時計。

触って分かる「三匹のこぶた」の絵本。

ビール缶の上側に書かれている点字。知りませんでした。

見えない状態だとかけ過ぎることが多いので、一定の量が出る醤油差し。

ハガキの宛名書きに使うスリット入りの厚紙。途中から目が見えなくなった人は、これで宛名が書けます。

白地に黒は眩しくて見えないという症状があって、そういう人たちのための黒地に白のカレンダー。

白い食材を上に乗せた時に分かりやすい、黒いまな板。

音声でブログ。

触覚ディスプレイ。

9×9の囲碁。9路盤と呼ばれているそうです。

通常の囲碁盤は19×19ですが、それだと全体を憶えるのがとても大変なので、視覚障害者の間ではこちらの縮小版の方が広まっているそうです。「通常の盤だと数時間かかるけど、こちらなら15分で終わります」 とのこと。「展開も速いし、持ち運びもできます」

9路盤の普及に関わっているという先生(視覚障害者ではない)と対戦させていただいた所、面白いぐらいに負けてしまい、しかも自分の打った手の悪さがすぐに響いてくるというのもあって、囲碁の面白さがちょっと分かりました。これは健常者の間でも楽しめるかも知れない。

通常の盤もあります。触れて確認できるように、石はへこみに固定されるようになっています。

こうして比べてみると、通常の囲碁盤に広がる世界は広大に感じられます。しかし、視覚障害者の方でも囲碁の有段者になると、こちらで勝負するようになるそうです。

視覚障害者の方とオセロもさせていただきました。

一回目は見ながらやって、勝ちました。

二回目は目隠しして挑戦。黒い方は表面にでこぼこがあるので、触れると分かります。

中盤は勝っていたのですが、最後で逆転されて、あっさり負けてしまいました。

強い人になると、盤の状態をまるごと憶えているそうです。それはすごい。

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2007年01月18日

芋は鹿児島、蕎麦は宮崎、麦は大分・長崎、米は熊本

ピューター製のマイジョッキを持って、焼酎を飲みに行ってきました。

中村先生お薦めの「台所家酒造」。大丸の北側、ビルの5階にあります。

焼酎全品315円というのはちょっと信じられない安さです。店のマスターと少し話してみると、焼酎に対する愛情が強く伝わってきます。本当にくわしい。

焼酎は様々な原料から作られますが、かなり地域差があるようです。鹿児島は芋、宮崎は蕎麦、大分・長崎は麦、熊本は米、奄美は黒糖、という風に蔵が分布しているそうです。

沖縄まで行くと泡盛なので、原料は米。なお、宮崎には芋・米・麦も入ってきていて、ひとつの蔵で何種類か出している所が多いとか。日本酒の醸造が盛んな福岡・佐賀では元々粕取り焼酎が有名だったそうですが、今はいろいろ作っているようです。

僕が好きなのは芋焼酎と黒糖焼酎。あまーいのが好きなのであります。

友人の実家が大石酒造という蔵なのですが、その品目と特徴をすらすらとそらんじてくれたのに驚かされました。あまり置いていないけれどいい焼酎らしいです。「鶴見」と「蔵純粋」。

なお、ピューター製のジョッキで飲むことによって焼酎がおいしくなったかというと、よく分かりませんでした。もともとおいしい。蒸留酒ではあまり違いが出ないのかも知れません。ワインや日本酒などの醸造酒でまた試してみようと思います。

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2007年01月14日

偽の影

今回の国際会議 Multimedia Modeling Conference を中心となって運営した Nanyang Technological University の Centre For Multimedia and Network Technology (CeMNet) を訪ねました。

マルチメディアとネットワークに関する研究室で、五名ほどのスタッフと三十名ほどの院生が所属しているようです。

スライドによる研究紹介の後、実際にデモを見せてもらったのは、プロジェクタを使って偽の影を投影するというシステム。

白い箱に上から光が当てられているように見えますが、実際はプロジェクタ(光源)は右の方にあって、箱の周囲に出来ている影はプロジェクタが映し出しているものです。

箱の背後に、本物の影がちょっと見えます。(写真をクリックすると拡大されます)

システムが箱の三次元モデルを持っていて、影になる部分を計算して投影するという仕組みです。

任意の場所に光源があるかのような演出ができるのは面白いと思ったのですが、何の役に立つのかは聞けませんでした……。

その他、複数のプロジェクタから投影された映像をシームレスに統合する技術、スクリーンの手前に人が立って影が落ちた場合、それを別のプロジェクタで補完する技術などを研究していました。

「要は、プロジェクタの明るさがどんどん上がってきているということです。そのうち照明を暗くしなくてもプロジェクタが使えるようになる。そういう時代に向けて研究を進めているんです」 とのこと。

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2007年01月07日

日本の防衛力

昔からの知り合いであるエモケンさんから電話がかかってきて、安宿東寺庵に泊まっているのだけど会いませんかとのお誘い。東京から山口の実家に帰る途中、京都に立ち寄ったとのこと。

東寺庵は海外からのバックパッカーや若い日本人旅行者が集まる宿で、いろいろ面白い出会いがあります。今回は冬休みということで、かなりの盛況でした。

様々なバックグランドの人たちとお話しましたが、海上自衛隊に長く勤めていた四十代くらいのおじさんとお話したのが特に興味深かったです。

普段は横須賀に勤務していて、今は京都に遊びに来ている所。

「どうなんですか、海上自衛隊」 と聞くと、なかなか心強い答えを聞かせてくれました。

自衛隊の艦艇から撃たれる砲弾の命中率は非常に高いらしいです。

なぜかというと、日本の自衛官は全般的に教育レベルが高いため、砲弾の軌跡を自分で計算して調整したりする。

もちろん、かなりの部分はコンピュータが自動的に計算してくれるのですが、「昨日はあんまり当たらなかったから、今日はちょっと変えてみようかな」 とか言ってパラメータを変えてみたりすると、翌日からばんばん当たるようになる。

数年前に行われた日米合同演習では日本が撃った弾ばかりが当たって、「これが実戦だったら大変だった」 とアメリカの軍人がコメントしたとか。

しかし、問題は弾ひとつあたりの単価が高いこと。

武器輸出三原則というのがあって、海外への武器輸出が基本的に禁じられているためです。日本以外の国々は自国で開発された兵器をどんどん戦争中の国に輸出して、単価を下げる。それによって自国の防衛力を充実させる。日本はそれをしない。

海外で作られた安価な兵器を輸入するという手もありますが、国内産業の育成も重要ということで、国産の兵器を使おうとする。だから日本人は防衛費に高い税金を払っていても、装備は他の国に比べて貧弱だったりする。

以前、イランとイラクが戦争していた頃、日本製の三次元レーダーを売って欲しいと頼まれたそうですが、武器輸出三原則のために断ったのだとか。

「防衛のための装置なんだから、売ればいいのにね」 と自衛隊のおじさん。

「お人好しの国だと思うけど、それでもいいのかもと最近は思う」

小学校の頃の先生が口癖のように、

「上を思えば限りがないと 下を見て咲く百合の花」

と言っていたのを今でも記憶しているそうです。

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2006年12月28日

人間の感性は2,000次元?

先日、慶應SFCの清木先生が研究室に来られて、共同で行っているプロジェクトの打ち合わせをしました。

清木先生の研究室では感性に基づく検索というのを研究されていて、たとえば「暖かい音楽」と入力すると、音楽データベースの中から実際に暖かい感じの音楽を見つけてきてくれる。かなりよくできています。

これは清木先生が10年くらい前に提唱した意味の数学モデルというのが元になっているそうです。すなわち、あらゆる検索対象を2,000次元の意味空間にマッピングしておき、クエリからの距離が近いものを検索結果として返すという仕組み。

なぜ2,000次元かというと、元になっているデータがロングマンの英語辞書だそうで、これはすべての語を2,000個の基本語彙で定義することを試みている。もちろん、個々の基本語彙が意味的に直交しているという保証はないので、あらかじめ相関行列に対する固有ベクトルを求めておく。

意味の数学モデルでは基本語彙同士が定義の際に使われるという関係を相関行列とみなし、その固有ベクトルを意味素と定義しているようです。手法的には特異値分解を使うLSI(latent semantic indexing)に似ていますが、LSIは実行するたびに空間を求めるのに対し、清木先生の手法は辞書をもとに一回計算すればいいだけ。

実際にロングマンの辞書から作られた相関行列を固有値分解してみたところ、フルランクとまでは行かなかったものの、落ちたのは10次元くらいで、「なかなかdisjointで良い辞書だった」 ということになったらしいです。人間の感性が2,000次元なのか、あるいはそれを表す言葉の世界が2,000次元なのか。そのような区別も微妙な所かも知れませんが。良いデータに着目すると良いシステムが作れるという一例だと思います。

検索対象に対するインデキシングはメタデータに含まれる単語を利用したり、色調などの特徴量を意味空間上にマッピングしておくことで行うようです。

たとえば「暖かい音楽」で検索した場合は、ロングマンの辞書における「暖かい」の定義からその意味空間におけるベクトルを求め、成分の絶対値が大きい数次元に射影した部分空間上で近傍に来る検索対象を求める。LSIは全次元を使って距離を計算するのに対し、清木先生の手法では部分空間だけに着目するので非常に速い。

この研究に基づいて作られた感性検索のシステムはキャノンに注目され、御手洗社長の前でデモをしたこともあるとか。キャノンの出資でアメリカでのパテントも取ったそうです。

何年後かには、感性検索の機能が取り込まれたカメラが売り出されているかも知れません。ファインダーに入った対象の色調に応じて撮影の方式を変えるとか。

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2006年12月21日

忘年会

昨夜は専攻の忘年会。
十人ほどの少人数だったが、二時間の飲み放題という区切りを大幅に超過し、夕方六時から十一時まで五時間も飲んだという、なかなかの盛り上がりだった。

そこで聞いてきた話。

・生物圏情報学のM屋先生はもともと農学部畜産系の出身だが、後輩の一人は子供を作る時、自分で顕微授精したそうである。

・生態学が専門のK山先生から聞いた話。最近、大山崎町のあたりで竹林が広がってきていて、地元の人たちが水質の変化を心配している。サントリーのウィスキー工場もあり、水質は非常に重要なので、土壌成分の調査が進められている。普通の植物は(乾燥させると?)50%くらいが炭素だが、竹の場合、炭素は40%くらいで、残りは珪素だとか。そのため竹林では表層の土壌から珪素が不足するという説がある。

・Winnyの新しいバージョンで脆弱性に対処すると言っても、古いバージョンを使い続けている人がいる限り、情報流出は収まらない。そこで、P2Pにおける強制アップデートという仕組みはどうか。たとえば古いバージョンとコネクションを張ったノードはその情報を周囲に伝達し、全員でDoS攻撃をかけるとか。アップデートするまで使えなくする。

・テープレコーダには人間には気付かない数%の再生速度の違いがある。モータの劣化などが原因。昔、磁気テープにデータを保存していた頃、その速度の違いによってデータが読み出せないという問題があったりしたらしい。

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2006年10月10日

大衆小説の歴史

読書の秋ということで、小説に関する話。

以前、文学部で19世紀イギリス文学の研究をしている知り合いと話した時、大衆小説の歴史について簡単に教えてもらいました。

推理小説が19世紀にエドガー・アラン・ポーなどによって始められたのは知っていましたが、実は19世紀にはその他にも様々なジャンルの大衆小説が登場し、流行しては衰退するというのを繰り返していたそうです。たとえば、

ピカレスク・ロマンという、悪漢を主人公にしたジャンル。

ゴシック・ロマンという、ゴシック調のおどろおどろしい雰囲気のジャンル。つまり「ドラキュラ」とか「フランケンシュタイン」とか。

ビルディングス・ロマンという、主人公が少年から大人まで成長していくジャンル。

あとで調べたら、最後のBildungsromanは日本語では「教養小説」と呼ばれるようです。「大いなる遺産」とか「魔の山」とか。あまり大衆小説っぽくないジャンルかも知れない。

数々のジャンル小説が生まれた中で、現在も日本の書店でコーナーが設けられるのは推理小説・SF・ファンタジー・歴史小説あたりでしょうか。

ジャンル小説の歴史が案外新しく、しかも過去に多様な種類が存在したことが興味深かったです。

実は現代においても新しいジャンル小説が生まれてくる可能性はあるのかも知れない。

ボーイズラブというのもそのひとつなのでしょうか。

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2006年10月03日

町家でわびきたす、入り隅みの広場と出隅みの広場

わびきたす(和びきたす)というのは「和」とユビキタス、あるいは「侘び」とユビキタスを合わせた造語で、研究室の中村先生などが取り組んでいるプロジェクト。

ユビキタスは人間の生活環境にコンピュータを埋め込むという考え方だが、往々にしてセンサーが剥き出しのまま並べられていたり、監視カメラが無愛想にこちらを睨んでいたりする。

美しくない。
ということで、風流に、和の空間と調和するユビキタス化を進められないかという着想である。
日本には昔から「隠す美学」があって、それをユビキタスに適用したのがワビキタスなのだそうだ。

石田先生のプロジェクトで京都の一角に借りている町家にて先日、その研究会が行われた。

僕はその日は別の打ち合わせで遅くなったため、メインの話は聞き逃してしまったのだが、NICTの是津さんが会の後半で突如として持ち出したスライドがなかなか興味深かった。和びきたすというより、西洋と日本の都市空間を比較したスライドで、本人いわく、西洋の都市空間から学ぶ所も多いということで持ってきたらしい。

元ネタは芦原義信「街並みの美学」(岩波現代文庫)という本。

特に面白かったのが、広場には入り隅と出隅みの二種類があるという指摘。

入り隅みとは、広場の角っこで建物の占める角度が270度になっている場合。
出隅みとは、広場の角っこで(個々の)建物の占める角度が90度になっている場合。

入り隅みの広場は包み込まれるような空間であり、人が集まる。

たしかに日本には入り隅みの広場が少ない気がする。
日本の公園は周囲が道路で囲まれていることが多く、横断歩道を渡らないと公園に入れない。
これによって人の流れは遮断され、公園を横切る人の数は少ない。
建物に包まれているような安心感もない。

一方、ヨーロッパではこういった四隅が建物で囲まれた広場をよく見かける。
そういった広場は車の立ち入りが原則的に禁止で、建物の外壁沿いにはオープンカフェが設けられるのである。

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2006年09月12日

ヨーロッパにおける研究費獲得の方法

クラクフで国際会議に参加していた折、カールスルーエ大学のクリンク先生と知り合いになった。情報検索を研究している三十代の助教授。

発表をまめに聞いてまわり、熱心に質問もしている。だが、それだけではないらしい。

「会議に来ると、ソーシャルネットワーク的な活動で忙しいんだ」

オンラインのソーシャルネットワークで遊んでいる訳ではなく、いろんな人と知り合いになり、話し合いをするということ。

なぜかというと、EUの政府から研究費を獲得するためには、申請者グループの中に最低でも五ヶ国、しかも東西南北それぞれの地域から最低一ヶ国ずつ研究者が参加していなくてはならないとか。

各国政府からの予算もあるが、それは金額が小さいため、やはりEUの予算を狙っていくことになる。そのためには研究者間でテーマのすりあわせを行い、ひとつの大きな目標を描かなくてはならない。それぞれの興味は異なるので、まとめる作業はなかなか大変である。

以前、別の先生も「アメリカは競争で予算が決まるが、欧州は協力で決まる」と言っていた。

そんな政治的な配慮で決められて大丈夫なのだろうかと少し心配になる。

ちなみに日本の場合、以前は学者の国会と呼ばれる学術会議という所が予算の作成に関わっていたため、内輪の力関係に影響を受けつつも、それなりにアカデミックな価値観で動いていた。しかし、近年の首相権限強化の流れに伴い、総合科学技術会議という組織が決定権を持つようになった。これには首相や大臣などの非研究者も参加しているため、

「この研究によって五年後にどれだけの経済効果が生まれるのか」

などという予想外の質問が出され、文科省の役人が答えに窮することが多いとか。

そのため、あらゆるタイプの質問に答えられるように、申請書に記入する項目が異様に増えてきているらしい。

そういう仕事が僕の所まで降りてきて、結構大変だったりする。

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2006年08月16日

皮膚からES細胞、微生物でL-ドーパ、混合微生物叢

大学の地下で営業しているA地下バーを久々に訪ねると、お客が十人近くいて賑わっていたのだが、常連に混じってオトナな感じの美女三名と男性一名という四人連れが来ていた。

話を聞いているうちに、そのうち二人はその日ニュースに大きく出ていた「皮膚の細胞からES細胞作った」研究室の院生、あとの二人も同じ再生医科学研究所の人たちということが分かり、非常にタイムリーに興味深い話を聞かせてもらった。

さばさばしてあかぬけた感じのIさんという女性が教えてくれたことによると、今回、雑誌Cellに掲載された発見のポイントはES細胞特有と考えられていた24個の遺伝子のうち、実際に必要なものを4つまで絞り込んだ点。すなわち、Oct4、Sox2、c-Myc、Klf4という4つの遺伝子をレトロウィルスを使ってマウスの皮膚の繊維芽細胞に組み込み発現させたところ、ES細胞と同じような働きを示したという。

「一番びっくりしたのは、Nanogを使わなくて良かったことですよ」とIさんは言う。NanogというのはES細胞特有と思われていたDNA結合タンパクらしい。今回使われたOct4やSox2の下流因子に当たるという。

「でも、ES細胞になったことって、どうやって検証するんですか?」と訊いてみる。

いくつか検証方法があるらしく、ひとつはES細胞特有のタンパクを調べる方法。また、in vitroで行う場合、神経や心筋など、誘導が容易なものに分化させるという方法がある。in vivoで行う場合は、免疫抑制系統マウスという、免疫のないマウスに組み込み、作られる良性腫瘍(テラトーマ)に三胚葉が形成されていることを確認する。

しかし、完全な検証は難しいため、Cellに載せた論文ではES細胞という表現は使っておらず、iPS細胞(誘導多能性幹細胞)という言い方にしたそうである。

「骨格の細胞も作ってましたよー。『出来たよ、出来たよ』とか喜んでた。どれがどれだか分からなかったけど」とIさん。

A地下バーでマスターをしているaが微生物の研究者であるというのを聞いて、Iさんたちも微生物実験で苦労した経験を語る。

「アグリゲーションしちゃって大変でした」
「ロゼッタガミ(Rosetta-gami)っていうのを使うといいですよ」

大腸菌と真核生物の細胞では頻繁に使われるコドンの種類が違うらしく、大腸菌に人間のタンパク質を合成させたりすると、特定のtRNAが足りなくなってしまうことがある。そこで、tRNAの割合を真核生物のそれに近づけたのがRosetta株。また、Origami株というのはタンパクの折りたたみに使われるシャペロンを合成させるようにしたもの。アグリゲーションというのはタンパク質が細胞内で塊を作ってしまうことだが、折りたたみが正常に行われることでそれを避けられるのだという。両方の遺伝子を継承しているのがRosetta-gami。

「でも、わざわざ大腸菌使うことないですよ。培養細胞でやればいい。大腸菌はうんこ臭いから」とa。
「ほんと。臭いですよね。タンパク質発現させた後の匂いとか」とIさんたちも同意。
「あいつらフェーズがあるらしくて。そういう時に匂ったりする」
「16時間誘導後のこの匂いは何、みたいな。アラビノースプロモータとかIPTGで誘導する実験したんですけど」

プロモータというのは遺伝子の転写が始まる起点。アラビノースの代謝に関わる遺伝子のプロモータは強い、つまり転写を開始しやすいので、その下流に誘導したい遺伝子をくっつけてやると、それががんがん合成される。一方、IPTGというのはラクトースを代謝する遺伝子のプロモータを使う方法。ラクトース代謝のプロモータは通常、リプレッサーと呼ばれる調節タンパクによってRNAポリメラーゼへの結合が阻害されているのだが、ラクトースが結合することでリプレッサーは解離し、転写が開始するようになっている。だが、ラクトースは簡単に分解されてしまうため、代わりにIPTGというラクトースのアナログを細胞内に入れてやることで、下流につけた遺伝子を大量に発現させることができる。これらは分子生物学では広く使われている手法だそうである。

かなり遅くまで話を聞かせてもらったのだが、女の子たちは翌日は朝からバイトが入っているそうで、午前一時頃に帰って行った。彼女たち、実験手法について語る時はものすごく饒舌なのに、その他の話題になると急に控えめで大人びた雰囲気になってしまうところが面白かった。

「プロモータと言えば聞いてもらいたい話があるんだけど」とaがおもむろに僕に言う。

プロモータを巧みに使って、L-ドーパを微生物に合成させる研究を先輩がしていたとのこと。L-ドーパといえば、小さい頃、僕に強い感動とトラウマを与えた映画「レナードの朝」に出てくる物質。嗜眠性脳炎という病気に罹って数十年間眠り続けていた患者さんたちにL-ドーパを投与した途端、ぱちっと目が覚める。だが、少女だったはずの自分がいつの間にか老婆になっていた、という話。しかも、耐性の獲得によって薬の効果は長続きせず、ふたたび眠りに落ちていってしまう。

L-ドーパはドーパミンの前駆体であり、血液脳関門を通り抜けることができるため、ドーパミンの欠乏によって引き起こされるパーキンソン病にも治療効果を持つ。

L-ドーパはアミノ酸のひとつであるチロシンのフェノール部位の水素が一つ多く水酸基で置換された構造をしているそうだが、TPL(tyrosine phenol-lyase)という酵素によってチロシンから合成することができる。一方、TPLはチロシンの分解酵素でもある。

このため、TPLは細胞内でチロシンが増加した場合に多く発現する。従来の方法ではエルウィニア・ヘルビコーラという土壌細菌の細胞内にチロシンを大量に入れてTPLを発現させ、L-ドーパを作らせていた。それを遠心にかけて分離するのだが、L-ドーパとチロシンの構造が似ているため、精製に大きなコストが掛かっていた。

そこでaの先輩は、チロシン無しでTPLが発現する微生物を作ろうと考えた。そもそもTPLが発現するのは、以下の仕組みによる。TPLプロモータ、つまりTPL遺伝子のRNAへの転写が始まる場所の付近(オペレータ領域)には通常、TyrR(チロアール)という酵素がくっついている。すなわち、TyrRはTPLのリプレッサーである。TyrRは普段は2量体だが、これにチロシンが結合すると6量体になる。するとその形状がかぱっと開き、TPLプロモータにRNAポリメラーゼがくっつきやすくなる。かくして転写が始まり、TPLががんがん発現する。

aの先輩は、チロシン無しでもTPLプロモータを開いた状態にさせる「狂ったTyrR」を作れば、TPLが合成されると考えた。そこでランダム変異という手法でTyrRの遺伝子を変化させ、目的のTyrRを持った株を探した。先輩は10万コロニーを当たって1個見つけるという打率だったそうだが、同じ研究室の教員であるaの師匠は1万コロニーを見ただけで5、6個の有望株を見つけ出したそうだ。注意力や観察力、経験がものを言う世界のようである。

その後、その「狂ったTyrR」がチロシンの結合無しでも6量体を作っていることを確かめ、論文として発表した。この手法では従来に比べて20倍のL-ドーパが作られるという成果が得られたという。L-ドーパを安価に作れるようになれば、たとえば途上国にも多く提供できるようになるのだろう。非常に意義の大きい発見であると思う。

「この研究、農芸化学というものを如実に表していると思うんだよ。つまり、応用をしっかり見定めた上で、確固とした科学に基づいて研究を行うという」とa。「普通はプロモータ変えたりとかがさつなことをするのだけど、ここでは調節タンパク自体をいじるというお洒落なことをしている」

a自身はこれまで腸内細菌のポリアミン代謝を研究していたそうだが、これからは混合微生物叢が重要なトピックになるであろうと予想していて、今後、そちらの方向に研究を発展させることを考えているそうだ。

混合微生物叢、すなわち様々な細菌が混ざり合い、平衡を保っている状態。微生物は単独で培養することが困難なものが多い。たとえばうんこに含まれている細菌の場合、90%が培地で増殖させることができない。土壌の場合は99%が生えない。海洋の細菌だとさらに低く、99.9%が生えない。

理由のひとつは、培養のための条件が明らかでないものが多いこと。もうひとつは、別の細菌の代謝産物が無いと生きていけない細菌が多いこと。そのため、これらを混合したまま培養する手法が最近注目されているのだそうだ。

メタゲノムといって、微生物を培養せずにそのDNAを解析するという手法も行われるようになってきている。特定の環境に属する様々な微生物のゲノムをまとめて解析してしまうというアプローチ。

aの将来的な夢は、混合微生物叢を使って水素を生成させることだという。たとえば特定の細菌を使って水素を発生させられるようになったとしても、家庭でそれを使う場合、確実にコンタミ(別の菌で汚染)が予想される。そこで最初から混合微生物叢を使って水素を作るようにすれば、安定して生産できるだろうという話。

お母さんが自宅の裏庭で漬け物を作るように、水素燃料も作ってしまう日がそのうち来るのかも知れない。

A地下バー

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2006年08月02日

KGC月例飲み会+研究発表会、ロールズの政治哲学、セルフリスペクト

未来社会の多様性を高めるシンクタンク KGCの月例飲み会に行ってきた。

毎月一回行われるこの飲み会は、研究発表会を兼ねている。
希望者が自分の好きなテーマについて発表するというスタイル。

今回は法学部で院生をしているK藤さんが発表されていた。
専門は政治哲学。

法学部というのは現実主義者が非常に多い所だそうだが、
哲学的なことに興味がある人、現実社会の利益以上のものを追い求める人は皆、
吹き寄せられるように同じ研究室に集まってくるので、
普段から議論の相手には事欠かず、なかなか面白い場所なのだそうだ。

K藤さん自身の研究テーマとは異なるそうだが、
研究室の教授がその著作を翻訳している有名な政治哲学者、
ロールズ(John Rawls)という人の思想について発表が行われた。

1970年代頃から有名になった人で、
アメリカで経済格差が広がっていくのに心を痛めたのが研究のモチベーションとなっているらしく、
現代日本の状況とも共通するところがあるかも知れない。

社会制度はもっとも恵まれない層の人々の幸せを最大化する maximin 戦略を採るべきだというのがその主張のひとつ。

さらに、「正義原理」という理想を実現するために必要な「基本善(primary goods)」、
すなわち「市民が自由で平等な人々であるために必要なもの」として、以下の五つを挙げている。

1. basic rights and liberties, also given by a list; (基本的人権と自由。別掲)
2. freedom of movement and free choice of occupation against a background of diverse opportunities; (多様な機会を背景とした移動と職業選択の自由)
3. powers and prerogatives of offices and positions of responsibility in the political and economic institutions of the basic structure; (基本構造を構成する政治的および経済的諸機関の責任ある職や地位における力と特権)
4. income and wealth; (収入と富)
5. the social basis of self-respect. (自尊心の社会的基盤)

特にロールズは五つ目に力点を置いて述べているという。

K藤さんによると、社会保障など、国民から税金を取ってお金のない人にまわすことを tax and transfer と呼び、
恵まれない層の人たちを支援するひとつの方法なのだが、
ロールズはこれはあまり良くないと主張している。

なぜかというと、それによって傷つけられる自尊心のダメージが意外と大きい。

自分は恵んでもらっているのだという意識が人間を苦しめてしまう。

それならむしろ、最低賃金を上げるなどといった方法で、
誰かからもらっているという意識を与えずに格差を縮める制度の方が良い、という考え方である。

個人的な経験を言えば、昔、夜回りの会という団体でホームレスの人たちに毛布を配るという活動をしていた時、
社会保障をもらえる状況にあるのにもらおうとしない人たちが結構いた。
生活保護を受けることを勧めても、断ってしまうのである。

人それぞれ事情はあると思うが、人からもらったもので生きたくないという気持ちは分かる。

最近、ホームレスの人たちが街角で売ってお金を稼ぐための雑誌 The Big Issue をよく見かけるが、その意味でも大変興味深い活動である。

自尊心を満たせる人は幸せである。

それは新しく何かに取り組もうというモチベーションにも繋がるのではないか。

自尊心と書くとマイナスなイメージが付随してしまう気もするので、
「セルフ・リスペクト」という言葉を使ってみるのはどうか。

文化の違いか、英語で self-respect と言った場合、
日本語で自尊心と言うよりも肯定的なイメージが伴う気がする。
自尊心はむしろ self-esteem と対応するのかも知れない。
self-respect はそれよりも良い響きがあるように思う。

この横文字を使って、自尊心の啓発活動ができないものか。

女性誌の見出しにも使えそうである。

「自尊心で綺麗になる!」

だとなんだか怖い感じだが、

「セルフ・リスペクトで綺麗になる!」

ならば何とか行けるのではないか。

人はセルフ・リスペクトを持てるべきだし、それを支援する活動や社会制度はもっとあってもいいと思う。

Posted by taro at 00:12 | Comments (2)

2006年07月29日

日米開戦回避工作

研究室の院生のKリくんが最近、病院の院長先生にプログラミングを教えるというバイトをしている。

その院長先生というのは、木津屋橋武田病院の橋本院長。
奥様が経営されている長時間心電図のコンピューター解析の会社が新規事業としてウェブページ制作を始められたため、
ご自身もプログラムをいじれるようになっておこうと、
週に一回のペースでPHPを学ばれているのだという。

先日、Kリくんを通して食事にお誘いいただき、
院生のK村くんと三人で、堀川通りに面したビルの六階にあるオフィスを訪ねた。

会社の名称はアイ・メディアエージェントと言って、医療系のウェブページを多数受注している。

社員の皆さんや橋本院長、社長をされている奥さんが迎えてくださった。東京で学生をしている息子さんも来られていた。

橋本院長は非常に気さくな方だった。

「手塚さんのウェブページ、見ましたよ。面白かったです」

ありがとうございます。

「僕もこんな本を書いたんです」

そう言って見せてくれたのは、200ページを越えるハードカバー。

「謀略-かくして日米は戦争に突入した-」。

橋本院長の親戚にあたる岩畔豪雄さんという軍人さんが、太平洋戦争の直前、開戦回避に向けた交渉に取り組んだ姿を描いたもの。
非常に躍動感のある文章で、魅力的なノンフィクションである。
医師としての仕事の合間をぬって、五年がかりで完成させたという。

「こんなのもあります」と言って見せてくれたのは、書籍の内容をパワーポイントでスライドショー化したもの。

「介護施設でこれを見せると、喜ばれるんですよ。紙芝居ですけどね」

それぞれのスライドの雰囲気に合わせたBGMも付けられている。
これはたしかに、戦争体験者の気持ちを奮い立たせそうである。

スライドを見せてもらったことで、内容がよく分かった。

太平洋戦争については、陸海軍が自らの力を過信して戦争を始めたという見方が根強いように思う。
少なくとも僕もそんなイメージを持っていた。

だが実際の所、陸軍内部ではアメリカと戦っても勝てるわけがないと考えられていたため、消極論が強かったとか。

「軍人は現実的ですからね。負けると分かっている戦争は始めないですよ」と橋本院長。

生産力の違いが圧倒的過ぎる。軍事力も違い過ぎる。

一方、アメリカ側にも日本と戦争する必要はないという考え方があった。とにかくナチスを倒せばよい。

では、誰が日米開戦を引き起こしたのかといえば、当時の外務省である、というのが橋本院長のご著作の指摘である。

それに加えて、当時の世論もそれを後押ししていた。
アメリカやイギリスによる経済制裁(ABCD包囲網)によって日本の物資は窮乏し、国民の間で米英への怒りが非常に高まっていた。

そんな中、ヨーロッパ大陸を快進撃するナチスドイツを日本国民は喝采。
ドイツ・イタリアと手を結んで米英を倒そう、という世論が強くなっていく。

昭和十五年十一月、すなわち日米の開戦からおよそ一年前。
アメリカ政府のウォーカー郵政長官がカトリックの神父二名を日本に非公式派遣した。
ウォーカーさんはルーズベルト大統領の選挙参謀であり、懐刀と言われた人物。国務大臣のハルとも親友だった。
神父派遣の目的は、日米開戦を避けるための交渉を始めることである。

神父たちは最初、大蔵省のOBで産業中央金庫という所の理事をしていた井川忠雄さんという人の所にやってきた。
井川さんは大蔵省にいる間、ニューヨークにしばらく駐在していて、アメリカの金融機関との繋がりが深かったのである。

井川さんは当時の近衛首相とも知り合いだったため、話を持っていった所、近衛首相はそれを陸軍省に振った。
かくして陸軍軍務局で軍事課長をしていた岩畔豪雄(いわくろひでお)さんに話がまわってきた。

軍事課長というのは現在の官庁における課長と似ていて、
ゆくゆくは軍務局長を経て陸軍大臣になるというエリートコースだそうである。
岩畔さんはスパイ養成学校として有名な陸軍中野学校の創設や、インド人によるインド独立のための部隊、岩畔機関の設立にも関わっていた人物だという。
また、その直接の上司である当時の軍務局長は、のちに東京裁判でA級戦犯として処刑された武藤章。
彼もまた、対米開戦は避けたいと考えていた。

昭和十六年四月、岩畔さんはワシントンに赴き、井川さんや野村吉三郎駐米大使と共に、
アメリカ国務長官のハルらと交渉に当たり、「日米了解案」という合意事項を取り付けた。
大使・軍人・民間人・国務大臣・神父が一緒になって交渉を進めていく様は、とてもドラマティックである。

この了解案にはアメリカが満州国を承認することなどが記されていて、
その半年後に出されて日米開戦の直接の引き金となった「ハルノート」に比べ、日本政府にとって格段に納得のいく内容であった。

岩畔さんたちは大喜びでこの了解案を日本に送ったのだが、
欧州訪問から帰ってきたばかりの外務大臣、松岡洋右がこれを握りつぶしてしまう。

なぜかというと、岩畔さんたちが日米交渉に取り組んでいるまさにその時、
松岡外相はドイツを訪問しており、ナチスの盛大な行進を見せられ、ヒトラーに心酔してしまっていた。
了解案への対応にもヒトラーの指示を仰ぎ、結局、アメリカとの交渉は決裂してしまう。

やはり、誰が一番悪いかといって、ヒトラーが悪いのである。

その後の経緯は歴史の教科書に載っている通り。

戦後、岩畔さんはこれらの経緯に関して沈黙を守ったために、
外務省の主張だけが広まってしまった。
それに対して反論する意味で、この著作は書かれたのだという。

そのようなお話を聞かせてもらいながら、橋本院長やご家族、社員の皆さんと一緒に行ったのは、西洞院にある寿司屋。
京都中央卸売市場と繋がりのある人が経営している店らしく、脂の乗ったトロが非常に美味だった。

その後、祇園で何軒かのお店に連れて行ってもらった。

アイ・メディアエージェントでは電子カルテシステムの導入に関わったりしないんですか、と訊いてみたところ、
今のところそれは医療関係者の仕事を増やすだけ、とシビアなことを言っておられた。
手書きと電子版の両方を入力しなくてはならないため、負担が増えるのだそうだ。

さらに、先生がいつも背を向けてデータを入力することになるので、患者さんからの評判が悪いという。
難しいものである。

簡単な図を入れようと思っても、現在のインタフェースでは入力することができない。

「画面上に人体図が出てくるようにしたらどうですか。クリックしたらそこが選ばれるとか」
「いや、それより患者さんの肩に触ったら、それが入力になって……」

いろいろ方法は考えられそうな気もする。

「カルテを電子化するより、医者を電子化した方が早いですよ」と橋本院長は冗談めかして言われた。
医師の日常業務の中には電子化できる部分がかなりあるという意味だろう。

手書きのカルテの字というのは往々にして汚いため、ある先生のカルテの字を読めるということがひとつの技能になっていたりするらしい。

それならむしろ、問診の際、データ入力者を同席させるというのはどうだろうか。
現在の制度では、そういうことにはお金が出せないのだろうか。

「結局、日本の場合はお金を減らすための電子カルテじゃないですか」と橋本院長。
「医療サービスの向上のためではなく、ってことですか」
「そうそう」

処方量のミスなど、電子カルテシステムを一回通すようにすれば、かなり防げるような気もする。
少々お金がかかっても、やった方がいいように思うのだが。
日常業務の電子化を進めて医師の労働時間を減らしたら、それもまた医療の安全性向上に繋がるのではないか。

医療というもの、ちょっとした政策のミスによって人命がばたばた失われていく所は、軍事と共通しないでもないと思った。


「謀略-かくして日米は戦争に突入した-」

イワクロ.COM ~岩畔豪雄(いわくろひでお)と日米諒解案~

ウェブページ制作 アイ・メディアエージェント

Posted by taro at 18:44 | Comments (4)

2006年07月23日

軍事の研究

先週の研究会で、韓国からサバティカルで一年間来られているL先生が発表されていた。

サバティカルというのは外国の大学にある制度で、
何年かに一回、一年ほど大学での仕事を免除され、海外の機関に滞在できるという仕組みである。

L先生は普段は韓国の国防大学という所で教授をしていて、情報技術の軍事利用が専門。
指導している学生さんは皆、軍人である。

今まで指導してきた研究は、
データマイニングを利用して潜水艦を音で判別する技術(潜水艦が水中で出す音はひとつひとつ違う)、
戦闘機訓練映像の検索、
陸海空のデータベースの統合、
有事におけるトランザクション処理、
ITSを用いた軍輸送システム、などだそうである。

来年以降は、ユビキタスセンサーネットワーク(USN)の活用のひとつとして、
弾薬庫や休戦ラインに張り巡らし、警戒システムとして使用する研究をやりたいとのこと。

休戦ラインというのが非常に具体的である。

発表の最後に、「こんな動画があります」と言って、
ボーイング社の副社長が韓国国防大で講演した時のビデオを見せてくれた。

未来の戦争ビデオである。

CGを駆使して、雪の中で闘う軍隊の姿を描いている。

自社製品を売るために、こういうビデオを熱心に作っているようである。
いわばプロモーションビデオ。

軍需産業がちょっと身近に感じられた。

もうひとつ、面白いテーマ。

「今、軍隊にとって一番の問題はNPOなんです。ここで訓練したらダメ! とか、言ってくる団体がたくさんあって。そういう人たちとの戦いが重要になっています」

国防は大変である。

Posted by taro at 11:23 | Comments (0)

2006年07月15日

人間が長生きな理由。パレートの法則。リクルートWeb APIなど。

今週の初め、出張で大阪に来られているリクルートのK岡さん、
関西勤務のH部さんにおごってもらい、大阪の北新地で飲んだ。

北新地で飲むなんて、初めてかも知れない。

学生のY本くんと一緒に行った。

リクルートの方々には研究関連でお世話になっている。

店に入るなり、H部さんが別のグループのお客さんから声をかけられた。
リクルートの偉い人とのこと。

そのお店自体、リクルートの社員が副業で経営しているとかで、同僚の利用が多いのだそうだ。

副業でお店を持ってしまう人、結構いるらしい。
ずいぶんと生産的な趣味である。

   ◇     ◇

リクルートは現在、ウェブ上のサービスで膨大な利益を上げている。
もちろん、紙の媒体でも。

その仕事をひとことでくくるのは難しいが、
K岡さんに言わせると、「マッチング」ということになる。

人と人、人とビジネス、ビジネスとビジネスを結びつける仕事。
ネットによってその範囲はさらに広がっている。

   ◇     ◇

音声変換を利用したアプリの可能性に関して雑談。

自分の喋った英語の発音をネイティブ風に直してくれるソフトとか、あれば面白い。

おばーちゃん用携帯というのがあって、喋った言葉をゆっくりに変換してくるらしい。

逆はどうか。

目の見えない人は、音声を聞き取る速度がものすごく速いと言う。
そのため、ウェブページの読み上げソフトは何倍もの速度で読み上げるように作られている。

目の見える人も、鍛えたらそんな風になれるのだろうか。

テレビを早送りで見れるようになれば、時間をより有効に使えそうである。

今度、「映画を1.5倍速で見る会」とかやってみると、面白いかも。

   ◇     ◇

話しながらメモを取る僕を見て、H部さんに感心される。

電子化しないのかと聞かれる。

手書きのメモはたくさん書き貯めているけれど、自分で打ち込むのは大変。

現在のOCRでは読み取りが難しいと思うので、パーソナライズドOCRが作られて欲しい。

そのための基礎データとして、小学校の漢字の書き取り帳をすべてデータベースに入れておくのはどうかという案。
全国民の漢字書き取り帳を蓄えるようにすれば、誰でもパーソナライズドOCRが使えるようになるのではないか。

   ◇     ◇

リクルートでは社員の提案を事業化する仕組みがあるらしく、
H部さんはそれに応募するための準備を進めている。

400件以上出される提案のうち、実際に事業化されるのは3件程度という狭き門だが、
書類審査を通って役員へのプレゼンテーションができるのは18件くらい。
そこまで行ければ、あとは6倍。

前回はサラリーマンが小口の出資で店のオーナーになるという事業を提案したそうだが、
今回は「家族」をテーマにした提案を出そうと考えている。

「ほら、少子化が問題じゃないですか」

最近結婚したというH部さん、少子化解決案をひとつ呈示していた。

「ある天文学者の人が言っていた説らしいんですけど。
人類が繁栄したことの一因は、おばあちゃんが子育てに協力するからだって。そんな生物、他にいないでしょう?
だから、三世代の同居をもっと増やして、おばあちゃんが孫を育てやすいようにしたら、親の負担も減り、人口が増えやすくなる、という説で」

ひとつの観点として面白い。

「だって、生殖能力が無くなっても生き続けるって、不思議じゃないですか」

人間の寿命が他の生物に比べて長いのは、そのためだったのか。

「それじゃ、おじいちゃんが存在する意味は?」
「おばあちゃんを食わせていくためですよ」
「なるほど」
「ということは、おばあちゃんが子育てしたくなるような雑誌を作ったらいいんだ」

子育ての熟練者に雑誌で教えることなんて、何も無いのかも知れないが。

   ◇     ◇

経済学ではパレートの法則といって、会社の利益の8割は社員の2割が生み出しているという説がある。

K岡さんによると、蟻の中にも怠け蟻と勤労蟻がいるらしい。
怠け蟻だけを取り出して集団を作らせると、それがまた怠け蟻と勤労蟻に分かれるとか。

何によってそのような判断をしているのか。
今なら怠けても大丈夫だな、とか判断しているのか。
食料の消費を減らすために身についた習性なのか。

蟻ごときがそういった怠け心を持っているとすると、
愛とか挑戦とか、人間的と思われる感情にも実は一億年くらいの歴史があるのかも知れない。

   ◇     ◇

リクルートは最近、一般向けのウェブAPIを公開している。

「よく出したと思いますよ。うちの商売の種なのに」とK岡さん。

じゃらんやフロムエーの情報が検索でき、それを使ったコンテストも開催している。

ぜひ、多くの人に応募してもらいたいとのこと。

Sun×RECRUIT Mash up Award

Sun側の告知

リクルート提供のAPI一覧

Sunの開発ツールを使うと得点が加算されるらしい。

Posted by taro at 23:51 | Comments (5)

2006年07月09日

ロバート・オーウェンの起業家サークル

週末、西大路のショッピングセンターのハンバーガー店でノートPCを広げて論文を書いていたら、懐かしい人と出会った。

肩に掛けた栗色の布に赤ちゃんを抱えて入ってきたのは、Mさん。旧姓Fさん。
会うのは三年ぶりくらいか。

「今、やっと寝ついたんで。お茶しようかと思って」

眠っている赤ちゃんを僕に見せながら、
まるで言葉をひとつずつ選んでいるかのようにおっとりと喋る彼女、
今は大学で駆け出しの研究者をしているという。

昔、フィールドワーク研究会というサークルを見に行った時に知り合ったのだが、父親は有名な文化人類学の先生。
旦那も工学部で研究者をしているとかで、研究者一族である。

彼女の専門は、経済思想史。

「いつの時代を研究しているんですか?」
「19世紀のイギリス。ロバート・オーウェンとか……」
「オーウェン?」
「最初に幼稚園を言い出した人で……」
「あ。もしかして、『空想的社会主義者』でしたっけ?」
「そう言われているんですけど……」

オーウェン研究者的に言わせると、別に「空想的」ではないらしい。

偶然だが僕も最近、別の場所でオーウェンの名前を見かけたのを思い出した。

「この前、ロンドンからエディンバラに電車で行ったんですけど。途中に面白い場所が無いか調べていたら、オーウェンが作った工場ってのが載ってましたよ。名前、忘れたけど」
「ニューラナーク」
「そうそう! 行ってみたかったけど、時間が無かったので行かなかったんです」
「オーウェンはニューラナークに行く前にマンチェスターで修行しているんですけど、その頃がとても楽しそうなの。サークルを作ったりとか」
「社会主義者のサークル?」
「いえ、起業家が集まったりとか。ほら、今と似た感じで。大学以外の勉強会とかで」

日本でも最近、起業家のサークルが活発に活動しているが、イギリスには百年前からあったようである。

地球の歩き方イギリス版に書かれていた説明によれば、オーウェンは実業家として成功したのち、自らの財産を注ぎ込んで労働者の生活環境改善に尽くした人である。
労働者の地位向上のためには教育が重要であると考え、工場に併設の幼稚園を設立したり、衛生的な住宅を提供したりした。
だが、労使協調的な穏健路線がマルクスなど共産主義者によって「空想的社会主義」と批判され、日本でもそのように教えられることが多い。

「オーウェンは何歳くらいだったんですか、そのサークル作った時」
「20代前半くらい」
「またくわしく聞かせてくださいよ」
「まだ論文は書けてないんですけど、また出来たら連絡しますね」

現代の起業家サークルと比較してみるのはなかなか面白いかも知れない。

Posted by taro at 22:13 | Comments (0)

2006年06月22日

老化の遺伝子

高校の頃の友人イヅが学会で京都にやってきて、
夜あいているので飲みに行かないと誘われ、飲みに行った。
六年ぶりくらいの再会。

烏丸御池の宿の近くで待ち合わせし、御池から高倉を下がった亀甲屋という居酒屋で夕飯。
ここのおかみさんは非常に上品に愛想が良く、雰囲気のいい店。
カウンターの上に並べられたおばんざいから好きな物を頼む。どれもうまい。
近況話に花を咲かせる。

イヅは分子生物学が専門で、最近はRecQ5βという老化に関係のありそうな遺伝子を研究しているという。
RecQ5βはRecQ helicaseと呼ばれるグループの一員であり、
helicaseというのは DNAの二重らせん(double-helix)をほどく(巻き戻す)時に使われる酵素とのこと。

大腸菌や酵母にRecという遺伝子の組み換え(recombination)に関わる遺伝子があり、
人間にはそれとホモロジーの大きい遺伝子が5つある。
おそらくRecが五つに分かれて進化したと考えられていて、
それぞれWRN、RecQ3、RecQ4、RecQ5などと呼ばれているそうだ。

細胞には遺伝子が紫外線などによって損傷を受けた場合、いったん巻き戻して修復するという機能があるそうだが、
RecQ helicaseに異常があると、その修復が行われない。
なので、遺伝子に急速に異常が蓄積し、マクロ的には老化として現れることになる。早老症と呼ばれる病気である。
WRNに欠損がある人はワーナー症候群といって、人より早く老化してしまう。
RecQ3に欠損がある人はブルーム症。RecQ4の場合はロスムンド・トムソン症。
これらは実際の症状に直結しているということで、研究者が山のようにいる。
ところがイヅが研究の対象としているRecQ5は今のところ具体的な症状と結びついていないので、研究者が非常に少ない。
日本に3-4人くらいではないかという。

RecQ5には三種類あり、スプライシングの時にエクソンがすべて使われるものとそうでないものがあり、長さが違う。
イヅが対象にしているのはその中で一番長いRecQ5β。アミノ酸が991個。

これが細胞内でどのように働いているかを調べるために、それが他のタンパク質と作る塊、複合体の構成を明らかにしていく。
RecQ5βのまわりにどのようなタンパクが集まっているかが分かると、その役割が推測できる。
そもそもイヅが所属している研究室は、タンパク質を解析するプロテオミクスを得意とする研究室なのだそうだ。

実験では、対象とする細胞の抽出物にRecQ5βと結合する抗体を加える。
抗体にはセファローズビーズと呼ばれる“重り”が付いていて、
これによってRecQ5βの複合体が重くなるので、遠心分離で沈殿させ、単離できる。
これが免疫沈降(immunoprecipitation)という手法。

得られた抽出物にアルゴンなどをぶつけると断片に壊れるので、
その分子量を質量分析(mass spectrometry, MS)で計測する。
断片が分かればそれがどのタンパク質であったのかが分かる。
これがシークエンスタグ法。

「ヒトゲノムがすべて解析されているからできることだけどね」

人間の細胞内に存在しうるタンパク質がすべて分かっているので、
データベースの中からマッチするものを見つけてきてくれるわけである。

生ビールの二杯目を頼む。
亀甲屋のおすすめは豆腐。近所の平野さんという豆腐屋で作られているのだが、
有名な旅館の柊屋や俵屋でも使われているという。いずれもこの店からすぐ近くである。

「京都は水がいいらしくて。うちでは平野さんと同じ水を使って、お出ししているんです」

揚げ豆腐を頼んだが、なかなか美味であった。

11時に閉店したので、まだ少し飲もうということで、御池通りを東に歩く。
麩屋待町で曲がり、柊屋と俵屋の間を歩く。
落ち着いた佇まいで、とても京都らしい雰囲気。
柊屋のすぐ南に豆腐屋の平野さんを発見した。

いったん鴨川まで出て橋の上で夕涼みし、先斗町を下がり、前から行ってみたかったバー、クラブ・デゼールに入る。
こちらも雰囲気の良い店。酒の品揃えにこだわりがある。
マスターから35年前のジョニーウォーカーを勧められた。

分子生物学の分野でここ五年ほどで広く使われるようになったRNA干渉(RNA interference, RNAi)という手法について教えてもらう。
siRNAと呼ばれる短いRNA鎖を加えると、それと結合する相補的なmRNAが分解されてしまう。
結果として、染色体から遺伝子をノックアウトするのと同じような結果が得られる。
手間と時間のかからない、「すごい技術」。
ノックアウトならぬ、ノックダウンと呼ばれている。
これを使ってRecQ5βの有無がどのような違いをもたらすかを調べているそうだ。

「細胞内で動きました、というのは分かる。だけど、生体内でどんな必要性があるか。それがbiology。
それがないと、現象学になってしまう。ずっとやってると、現象学ばかりやっている自分に気付いたりする。
あれも動きました、こうも動きました、みたいな。
どういう役割を持っているのか、長いプロセスのどこに機能しているのか。今、絞り込んでいるところ」

イヅの研究室は教授ひとりにドクターの学生が数名という小規模な研究室なので、
新しい系を作るとなると、論文だけを頼りにして作らなくてはならない。

「そういうのって、コツがあるじゃん」

大きな研究室のメリットは、様々な系を作るノウハウを持っていること。
ビッグラボはうらやましいと言っていた。

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2006年05月14日

A地下バー再訪

学生の頃の知り合いで現在は新聞記者をしているWさんが、大学の地下にあるA地下バーに行ってみたいと以前から言っていたので、たまたま東京で働いている僕の妹が京都に遊びに来ていたこともあり、連れだって飲みに行った。

金曜日の晩、A地下バーでは微生物の研究者であるaがマスターをしている。博士論文では大腸菌を扱っていたa、今年は乳酸菌を研究しているらしい。

僕の妹は学生の間、ニワトリの発生を研究していたという話をすると、
「多細胞の人はいいよね。原核生物はほんとに見下されているから」と嘆いた上で、「でも、乳酸菌だと一般人の食いつきが全然違うね。大腸菌を研究してますって言っても、『ふーん』で終わりだったけど。乳酸菌だとみんなすげぇ興味持ってくれる」

乳酸菌は体にいい、のイメージは大きい。

乳酸菌というヨーグルトに入っているビフィズス菌をまず思い浮かべてしまうが、実際にビフィズス菌を研究している人々に言わせると、「乳酸菌とは一緒にしないでくれ」ということになるらしい。

なぜかというと、ビフィズス菌は乳酸に加えて酢酸も分泌する。さらに、酸素に触れると死んでしまう。だから、ビフィズス菌を扱う場合は培地に酸素が入らないように細心の注意を払わなくてはならない。酸素を抜くホッカイロのようなものがあるのだが、ビフィズス菌の場合はそれを通常の倍、入れる必要がある。そんなこんなでいろんな手間がかかるので、「乳酸菌と一緒にしないでくれ」ということになる。
もちろん、ビフィズス菌を乳酸菌に分類する人も多い。

ビフィズス菌がなぜ体に良いと言われているかというと、赤ちゃんの体内ではある時期までビフィズス菌が優勢であり、それが赤ちゃんの異様な元気さの理由ではないかと言われていて、大人もビフィズス菌優勢にしたら元気になるのではないか、という仮説が立てられたためだそうである。

赤ちゃんにおけるビフィズス菌優勢の原因は、母乳ではないかと考えている人もいる。
母乳入り栄養ドリンクとか、ヒットするかも知れない。
もちろん、母乳の成分を合成的に作ることになるのだろうけど。母乳成分入り栄養ドリンク、といったところか。

「だけど、乳酸菌の研究はすごく苦労が多いよ。大腸菌に比べて」とa。

大腸菌であれば現在までにかなり研究が進んでいて、DNAの取り出し方が確立されている。また、データの蓄積もある。
一方、乳酸菌は細胞壁が厚く、遺伝子を入れることが困難。
大腸菌はグラム陰性、乳酸菌はグラム陽性である。
また、研究があまり進んでいないため、DNAを取り出す方法も確立されていない。
乳酸菌というのは乳酸を分泌する菌の総称であるため、DNAを取り出す方法、つまり細胞壁を壊してDNAだけを取り出す方法はそれぞれ異なる。
乳酸菌の中でも、今まで研究が行われてきた株では取り出し方が知られているが、同じ方法を別の株に適用してもうまくいかない。

すなわち、大腸菌で当然のように出来ていることが、乳酸菌では全然出来ていない。
逆にいえば、これから大きく発展していきそうな分野ということになる。

現在のaの研究は、「体にいい乳酸菌」を作ることだそうだ。具体的には、腸壁によくくっつく乳酸菌を探しているという。

「乳酸菌が細胞にくっつくというのは、ホットなトピックなんだよ。腸内フローラとか言われていて。お花畑のイメージね。腸の表面に菌が大量にくっついている状態で」

だが、乳酸菌もビフィズス菌も腸壁にくっつく力が弱く、一日経つと腸から流れ出てしまう。
「だからヤクルトは一日一本なのか」と僕は納得。

aは乳酸菌のたくさんの株の中から、ほ乳類の細胞によくくっつくものを見つけようとしている。
これが見つかると、毎日乳酸菌飲料を飲まなくてもよくなる。
効果の持続する乳酸菌飲料。

「腸にくっつく乳酸菌。ニュース性のありそうなテーマですね」と新聞記者であるWさんに言うと、
「あるある。記事になるよ」

そのような条件を満たす乳酸菌を見つけるため、様々な株の乳酸菌をほ乳類の細胞と混ぜ合わせ、塊を作るものがないか調べている。
だから最近は毎日、顕微鏡を覗いているそうだ。

そうやって100株調べたところ、そのうち2つが大きな塊を作っていた。

「嬉しくて、教授呼んじゃったよ。『塊作ってますよ!』とか言って」

ところが調べてみると、あいにくそのうちのひとつはオランダ人の研究者がすでに昨年、論文として発表していたという。

「ほんのちょっとの差でね。しかも、仕組みまで明らかにされていた」
「もうひとつの方は発表したの?」
「いや、まだできない。どうしてくっつくかの仕組みまで明らかにしないと、論文にならない。だけどなかなか難しいよね。DNAを取り出すこともできないし」
「くっつく仕組みっていうと、糖鎖?」
「糖鎖と、レクチンというタンパク質がくっつく。細菌の方がレクチンで宿主が糖鎖という場合と、細菌が糖鎖で宿主がレクチンという場合の二つがあるけど。前者の方が多いかな」

糖鎖とレクチンの両方を明らかにしないと、論文として発表できないそうである。

「よくくっつく菌だけをたくさん入れるって、ちょっと気味悪い気もするよね。遺伝子組み換えではないからいいのかも知れないけど」と僕。

これからの人々はみんな、様々な善玉菌を体内のあちこちに選択的に棲ませるようになるのだろうか。

「くっつきやすい乳酸菌って、いいことばかりじゃない気もする。虫歯の原因とかになりそう」
「それはありうる」

Wさんからは、取材でイラクに行った時の話をあらためて聞いた。

イラク入りする直前、イギリスの学校で戦場での心得のような講習を受けたという。
講習を開いているのは、元軍人たちが働く警備会社。

その講習の中に、「人質になった時の生き残り方」という科目があった。

いろいろ心得があるのだが、そのひとつは誘拐犯側になるたけ情を移させること。

誘拐犯といっても人間なので、情が移ると殺しにくい。
常にうまくいくとは限らないが、その僅かな可能性にかける。

モノではなくヒトなのだということを感じさせること。
具体的には、何でもいいから小さなお願いをする。
それを叶えてもらえたら、別のお願いをする、ということを繰り返す。

たとえば最初は「顔を洗わせてくれ」。何度もお願いしてそれが認められたら、次は「歯を磨かせてくれ」。
順に願いを叶えてもらうことで、人間として認識させる。

幸い、Wさんはそのような危険な目に遭うことなく、日本に帰ってこれた。
現在は神戸で社会部の記者をしている。

記者としての最近の問題意識は何ですか、所得格差の拡大とかですか、と聞いてみると、

「たくさん稼いでいる人が幸せとは限らないし、所得が少なくてもその分時間があって幸せな人もいるし、格差の拡大って、言うほど問題なんだろうか」とか言う。

「それじゃ、自殺が増加しているという問題はどうですか。自殺する人は幸せですか」と聞くと、
「それは問題だと思うね。すごく取り上げたいと思っているテーマ」

相談に乗ってあげる人が身の回りにいれば、自殺を思いとどまる人も多いのではないか、
米国におけるカウンセラーのようなものがもっと増えればいいのだろうか、という所から、
日本におけるそのような役割を担いうる存在として、生死に関する専門家である仏教のお坊さんはどうか、という話になった。

実際、自殺しそうな人を助けるという事業に全国のお坊さんが立ち上がればいいのに、とか思う。

Wさんのブログ

A地下バー

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2006年05月07日

ミリテク

木屋町の飲み屋、八文字屋に久しぶりに行くと、
散らかり放題だった店内が綺麗に模様替えされていて、
今までカウンターの奥にあったレコードプレーヤーがテーブル席に移されていた。

その横にはレコードが平積みにされている。

興味を引かれて、一枚、手にとってみた。

マスターの甲斐さんに、溝のある部分に触ってもいいよと言われて、触ってみる。

恥ずかしながら、レコードの表面がつるつるしているということを今になって初めて知った。
もっと、ざらざらしているものだとばかり思っていた。

いや、実際のところ、僕の記憶にあるレコードはざらざらしていたような気もする。
本当にこんなだったか?

「雑誌の小学一年生の付録でついてきたレコードは、もっとざらざらしていた気がするんですけど」
「それはソノシートでしょ」
「なるほど」

ラベルに「33 1/3 RPM」と書かれている。つまり、1分間に33と1/3回転するということ。
そのレコードには27分の音声が録音がされているというから、
単純に計算して、1000周近い溝が埋め込まれていることになる。

溝のある部分の幅は10cmもない。つまり、1mmに10本以上、溝が刻まれていることになるのだろう。

表面がつるつるしているのも当然である。

かなりの微細加工技術。

ナノテクならぬ、ミリテクだ。

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2006年05月05日

地下農場見学のあと

大手町のオフィス街の地下でパソナの農場を見学した後、参加してくれた人たちと一緒に食事に行った。

いろんな分野の人たち、しかもかなり面白い人たちが参加してくれたおかげで話が弾み、様々なことを聞けた。

以下、その時に教えてもらったこと。


◆大学で地球温暖化を研究されているK先生。

調査で最近までアラスカに行っていた。
一番近いスーパーまで1000キロという場所。
零下なのに、蚊がものすごく多い。アラスカは基本的に蚊が多い。
カモシカの赤ちゃんが蚊に血を吸われすぎて死んだりする。

白夜のため日が沈まないので、20時間ぶっつづけで調査する人とかいる。
娯楽が何もないので、休日はハイキングとか。
寒冷地のため、植物は50年で30cm伸びるくらい。
そんなのを踏みつけてハイキングするのはすごく気が引ける。

地球温暖化の原因がCO2だというのはまだ確証されたわけではない。
様々な調査によって検証していかなくてはならない。
ジェット機が高層大気に放出する水蒸気で温暖化をすべて説明できるという人もいるし。

「温暖化ガスがあるなら、冷却化ガスというのはないんですか?」と僕。
「ガスじゃないけど、エアロゾルというのは太陽光を遮断するので、気温を下げると言われている」

温暖化に関する調査は世界中あらゆるところで行われている。
普通にはあまり行けないところに行けるのがこの仕事の魅力。

「南極の昭和基地に行きたい!」と主張する僕とriri嬢に、
「昭和基地には芸術家枠というのがある。芸術家の人たちが南極の風景を絵に描いて残したりとかしてる」


◆写真家のriri嬢。

海外のギャラリーでは、オーナーとキュレーターという役割分担がある。
オーナーはギャラリーの所有者。
キュレーターは目利き。
良いキュレーターがいるかどうかで、ギャラリーの人気はほぼ決まる。
日本ではオーナーのおっちゃんがキュレーターを兼ねちゃったりしていて、
適当に作品を選んで展示したりしている。

日本と海外では、芸術作品につける値段が全然違う。

ここで、音大で声楽をやっていたyuko嬢がコメント。
「ホテルに声楽家を派遣する仕事も趣味でやっているのだが、
一流ホテルであってもびっくりするような安い値段を提示してくる。
申し訳なくて、紹介するのやめようかとか思う。
それでも一流ホテルで歌えるということで、みんな引き受けてしまう」

riri嬢の実家は焼酎の蔵元だが、40度というきつい焼酎を作っている。
これを作るのはなかなか難しく、度数が毎年違ってしまう。
なので、いつも手書きで度数を書いている。
焼酎好きに好まれている逸品だとか。「蔵純粋」という名前。


◆ウェブ制作の会社を経営しているyuko嬢。

経営者の仕事は基本的に、段取りすることである。
あの人をこれにまわして、この人をあれにまわして……。
と、日々パズルを考えているかのよう。

デザイナーに払う代金は、その人の経験に応じて決める。
安すぎたらモチベーションが下がるし、
最初から高すぎるのも問題だし。難しい。

今は6-7人でやっているが、それでもてんてこまい。
10人以上を直接動かすのは難しいと思う。
おそらく、中間管理職が必要になる。

仕事の上でもうひとつ大変なのは、クライアントからの細かい要望。
最近まで美容関係のサイトを作っていたのだが、
載せた写真に対して、「この皺とって」とか言われる。
それで苦労して画像処理ソフトで顔の皺を取ったりする。

食事している間もyuko嬢の携帯には何度も仕事の電話がかかってきて、しょっちゅう店の外に出ていた。
連休前に仕事を終わらせたいので、なおさら忙しいとのこと。


◆デイトレーダーのしんご氏。

最初の頃は6台のPCに囲まれて仕事していたが、
今ではこれまでに蓄えた知識をエクセルのマクロに組み込み、
自動的に売り買いさせているので、
普段はノートPC一台を使うだけで十分。

海外市場を扱っているので夜活動しているのだが、
市場が閉じる時に、すべて現金化する。
これだと価値変動がないので、安心して眠ることができる。

「業種とか、関係ないんですよね」とyuko嬢が訊く。
「関係ない。あがり方を見ているだけ。社会貢献性ゼロだね」
「まじすか」
「最初の頃は何かの役に立ってるんじゃないかとか、いろいろ考えたけどね。でも結局、ゼロだね」
「自分がその仕事に向いていると思うのはどんな時ですか」
「負けても淡々としていられるところ。始めたばかりの頃は負けるたびにびびってたけど、今は大丈夫」

と、淡々と語った。


◆厚生労働省で国家公務員をしているエヌ。

人材派遣業は戦後、暴力団の主要な活動のひとつであったため、禁止された。
山口組も元々は神戸で港湾労働者を派遣することでスタートした団体である。

派遣が行える分野は長らく限定されていたが、
昭和50年代からオフィスのOA化が進み、どうしても人材の派遣が必要となったため、
そのための枠組みが作られた。
そして昭和61年に新しい人材派遣の法律ができて、それ以降、規制緩和が急速に進んでいる。


◆監査法人に勤めるカツオさん。

監査法人というのは企業の会計を監査する組織であるが、
会社というよりは緩い繋がりでまとまっている。共同の事務所という感じ。
自分自身は主にコンサルティングをやっている。
民主党の政策を立案するシンクタンクのようなこともやっている。

監査の仕事では怖い企業を相手にすることも多い。
企業の人に、「ここは見逃してくれ」などと言われて百万円の札束を渡された同僚もいるらしい。

Posted by taro at 17:51 | Comments (2)

2006年04月22日

感性検索

慶應大SFCの清木先生の研究室では、感性検索というのを研究している。

キーワードで検索するのではなく、感性的な表現を使って画像や音楽を検索できるようにするシステム。

たとえば「暖かい感じの写真」と入力すると、
データベースに入っている画像の中から、もっとも暖かい感じの写真を見つけてきてくれる。

機械が今まで得意としてこなかった、感性情報を扱えるようにするというのがポイント。

最近開発されたという音楽検索のデモを見せてもらったのだが、
「長調で切ない感じの曲」という風に検索すると、たしかにそういう曲が見つかる。
かなり良くできている。

今は検索に使っているが、同じ技術を使って機械に芸術作品の感想を言わせることもできるだろう。

機械にも感性が分かるというのはすごいことだが、ちょっと怖くもある。

人間が感じているようには感じていないはずなのに、あたかも感じているかのように見せる機械。

「いい絵ですね。心がなごみます。この柔らかなタッチが素晴らしい」

「ああ、美しい音楽だな。切ない感じが何ともいえない」

とか。何も感じていないのに、感想を言う機械。

Posted by taro at 00:18 | Comments (2)

2006年04月20日

小さい小学校

伏見稲荷の横にある京都市立稲荷小学校に行って、
研究室で開発された検索システムを先生方に見せてきた。

これまでは五年生と六年生の授業で使ってもらっていたのだが、
他の学年にも拡張できないかと考え、説明会を開かせてもらったのである。

ほとんどの先生に出席してもらったのだが、その人数の少なさに驚く。

教員は全部で10名だという。

というのもこの小学校、各学年に一クラスずつしかなく、生徒数はそれぞれ30人以下。

一年生から六年生まで合わせても、170人しか生徒がいない。

この小学校が特に小さいのか、あるいは日本全国で子供の数が減っているということか。


地図を使ったウェブ検索のシステムを一年生の担任の先生に見せると、

「これは三年生以上じゃないと無理ね」

と言われた。

二年生までは、ほとんどの子供が地図という概念を理解できないらしい。

学校から家までの帰り道も、どこで曲がるかを憶えているだけで、頭の上から見下ろしたイメージが持てない。

ところが三年生になると、突如として地図が読めるようになる。

「どうやって理解しはじめるのか、非常に興味深いのよね」

とつぶやいた。

子供の知性の発達って、たぶん面白いと思う。

Posted by taro at 00:15 | Comments (0)

2006年04月14日

MBAでは何を教えてくれるか

四月から経営管理大学院の教授に着任されたHラ先生が先日、研究室に挨拶に来られた。

経営管理大学院というのはMBAを取るための大学院である。
最近、全国の大学が競ってMBAの大学院を設立しているが、その流れの一環として今年度から新設されたのである。

Hラ先生は長らくシリコンバレーで働いておられたのだが、
アメリカの大学で行われている企業のエグゼクティブ向けの短期集中講義というのを利用して、
MBAの授業を受けられた経験もある。

「どういった内容なんですか」と聞くと、

「企業の成功事例や失敗事例をひたすらたくさん教えてもらうんです」

経営の理論ではなく、事例ベースで授業を進めていくらしい。

「そこで教わったことは役に立ちましたか」

「そうですね。それを知ったからといって成功するかどうか分かりませんが、少なくとも同じ失敗はしないで済む」

「歴史学みたいですね」とうちの教授。

「ええ、そうかも知れません」

言われてみると、政治史・文化史・経済史は学校でも習うが、
企業史というのはあまり習わない。

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2006年04月06日

脳に電極の講演会

ATRで脳と機械を繋ぐブレイン・マシン・インタフェースに関する講演会があったので、聞きに行ってきた。

「脳を活かす研究会」という名前の会で、この春に出来たばかり。

ちょっと遅れたために途中からだったが、ジャーナリストの立花隆氏が話していた。

アメリカではニコレリスとシェーピンという研究者がラットの脳に電極を付け、ラットが考えるだけでロボットアームが操作されるという実験に成功している。

この研究にアメリカ国防総省の研究機関であるDARPAが注目し、大量の資金を提供して「考えるだけで銃を撃てるシステム」というのを開発しているらしい。
戦場では一秒でも速く撃つことが重要とか。
引き金をひく時間も惜しいのだそうである。

そのうち、撃とうと考える前に撃ち終わってる銃とかも発明されるのだろうか。

立花氏の分析によれば、脳研究の方向に近年、大きな変化が起きているという。
従来は基礎科学的に、ニューロンレベルでの解析を行おうとしていたが、
現在では大量のニューロンのまとまりから意味のある情報を取り出し、
実用的なアプリを作るという応用科学的な展開が急速に進んでいる。

分子ひとつひとつが細胞の機能にとってそれほどクリティカルでないように、
ニューロンも個々の繋がりより全体的な傾向が重要と言えるかも知れない。

話が面白くなってきたところで終了のベルが鳴らされたのだが、
途端に「それでは、おしまいです」と言って講演を打ち切ったのは偉いと思った。

続いて、SF作家の瀬名秀明先生が話をされた。
最近、東北大の特任教授に着任し、サイエンスリテラシーを高めるための活動を行っておられる。

科学の本質は方法論であり、グレーゾーンの部分にこそ科学の神髄があるのだが、一般人は明確な結論ばかり求めるので疑似科学が流行する、という話。

脳に関する小説として「ブレインバレー」というのを十年前に書かれているのだが、最近の読者から「この本はクオリアについて書いていないからダメだ」といった手紙が来たりするらしい。

人間が「自分にクオリアがある」という言い方に説得力を感じるというのはどういうことなのだろうかとか思う。

研究会の最後は、日大医学部長の片山容一先生によるDBS(Deep Brain Stimulation, 脳深部刺激)の講演。脳内に電極を埋め込むことで、脳卒中の後遺症などを治療できるという話。

従来の脳神経外科では研修の頃から神経繊維間の結びつきを大量に憶え、その欠損から生じる後遺症を理解していくため、脳の不調に対して「神経回路(circuit)の機能欠損」という考え方をしてしまうことが多い。

これに対し、機能神経外科では脳の不調を「神経回路網(network)の機能失調」と捉える。

回路であれば配線が一本切れたら匙を投げるしかないが、ネットワークであれば別の場所でバランスを取ればよい。

機能神経外科では当初、脳神経を一部破壊することによってバランスを取り戻すという治療法を行ってきた。

一方、片山先生らが取り組まれている治療法では神経を破壊せず、脳内に埋め込まれた電極からパルス信号を送り込む。脳の深部に刺激を送るので、脳深部刺激(Deep Brain Stimulation、DBS)と呼ばれている。鎖骨の下にバッテリを埋め込み、皮膚の下を走らせたケーブルを通して刺激を送る。

脳卒中の後遺症で生じる不随意な震え(振戦)がDBSによって劇的に止まるビデオは感動的である。

「ゆびゆび試験」というのがあって、両手の人差し指同士を近付けた途端、手が激しく震えてしまうという患者さんたちがいる。
パルス信号のスイッチを入れた途端、この震えが止まるのである。

ヘミバリスムスという症状を持つ患者さんは、起きている間延々と体の一部が不随意に動いてしまう。これは視床にDBSを行うと劇的に改善される。

ジストニアという症状の患者さんは筋肉が勝手に収縮してしまうそうだが、腹筋にこれが生じると、常に前屈した状態でしか生活できない。これもDBSで治療したとたん、まっすぐ立って歩けるようになる。

幻肢疼痛といって、無くなったはずの手や足が痛むという症状があるそうだが、これは手や足を治療するわけにはいかず、脳を治療するしかない。これに対してはかなり早い段階でDBSの治療が行われてきた。

パーキンソン病にも効果がある。

最近ではてんかんや精神疾患にまで利用を拡大しようとしているそうだ。

脳内のどこに電極を差し込むかによって、効果が違ってくる。
現在までにDBSの対象となっているのは、視床、大脳皮質、淡蒼球内節、視床下核など。

効果を得るためには、正しい場所に電極を差し込むことが非常に重要である。

最近ではMRIの精度が向上したことによって、MRI誘導定位脳手術というのが行われている。

手術の時に撮影された動画を見せながら、片山先生が説明する。

「ここが視床下部、ここが黒質です」

しかし、MRIでは1mm以下の精度は期待できない。
そこで準微小電極というのを使って、電極の先にあるニューロンの電位変化を見ながら動かしていく。
電極が視床下核を貫いた途端、特徴的な波形が現れるのではっきりと分かるとのこと。

近年の発展としては、DBSから四六時中パルス信号を送り続けるのではなく、必要に応じて起動するという方式が研究されている。これは「オンデマンドDBS」と呼ばれていて、フィードフォワード制御とフィードバック制御の二種類がある。

フィードフォワード制御の場合、腕に電極を付けて筋電を測るようにしておき、特定の場所に筋電が生じた時にパルス信号を開始させる。不随意振戦は姿勢によって生じることが多いため、この制御は有効である。

最初の頃は一ヶ所から筋電を取っていただけだそうだが、現在では四つの筋電計を付け、最適な結合を学習させているらしい。

振戦が起きている時の患者さんの脳を近赤外線イメージング(NIRS)で見ると、運動野の特定の部位に非常に活発な活動が起きているのが分かる。これを使って制御することも考えている。

一方、フィードバック制御の場合、単に筋肉を動かした時ではなく、振戦が発生した時にパルス信号を起動する。振戦が止まればパルス信号を停止する。
ところがこの方法の問題は、振戦とパルスが振動を起こしてしまうということ。

振戦が発生したらパルス信号が送られるが、それによって振戦が止まるとパルス信号も止まって、また振戦が発生する。

結果として、最初よりも複雑な振戦が生じてしまう。

フィードバック制御を行った時の動画を見せてもらったが、患者さんの手が静止せず、ぷるぷる複雑な波形で震えている。

片山先生いわく、

「エンジニアの人はこういった部分が面白いらしく、いろいろパラメータを変えて実験されていましたが……」

患者さんで遊んではいけません。

講演後、片山先生に会場からの質問。

「電極に送られるパルス信号は位相制御されているのですか。つまり逆相の信号を送っているのですか。それともやみくもに送っているのですか」

「やみくもに送っています。それでもうまくいく」

「この治療によって生じる問題としては、どのようなものがあるのでしょうか」

「ひとつは、脳内に信号を送ることで脳が特定の周波数を学習してしまい、てんかんが生じてしまうのではないかという危険性。もうひとつは、脳内で欲求を司る報酬系という場所を刺激してしまうと、患者さんは治療されること自体に喜びを感じてしまう。そういうことが起きないように、注意しています」

かなり未来を感じさせる研究会であった。

Posted by taro at 23:57 | Comments (0)

2006年04月03日

営業力

T田先生とY田先生の壮行会にて、
I原研四回生のHヤシくんから、営業のバイトをしているという話を聞かされた。

彼はいつか企業の社長になりたいと考えているそうだが、
最近、社長というものは技術力があるだけではだめで、
営業力がなくてはならないということに思い至ったらしい。

そこで、バイト情報誌で営業の仕事を探し、
学業の合間に熱心に取り組んでいるのだそうだ。

最初にやっていたのが、クーポン券を売る仕事。

見知らぬ人の家に押しかけて、
クーポン券ばかりまとまめた本を一冊3,500円で売る。
そのうち彼の取り分は1,500円。
滋賀まで行って売っているので、二冊以上売れない日は赤字になるのだそうだ。

心意気はすばらしいと思うが、
他人事ながら、そんなもの売れるんかいなと不安になる。

「どうせ売るなら、もっと面白いものを売ればいいのに。努力したって、クーポン券なんて買ってくれる人は限られてるんじゃないの」

と僕が言うと、T見くんが横から口を挟んだ。

「いや、いいもん作ったら売れるゆう考え方は甘いで。営業ゆうのは、商品を売るんちゃう。自分を売るんや」

Hヤシくんもうなずく。

「僕も上司からそう言われました」

それ、信用していいのだろうか。

Hヤシくんがひとりで訪問販売しているというのを聞いて、ふたたびT見くんいわく、

「ひとりでやっても上達せぇへん。先輩と一緒にまわって初めて、営業のやり方ってのは分かるもんや」

幸い、クーポン券の販売はもう辞めていて、今は新聞の営業をしているらしい。
こちらは先輩と二人でまわって、いろいろ技を学ばせてもらったそうだ。

T見くんに言わせると、人間には仕事を取ってくることに喜びを感じる営業型の人間と、
与えられた仕事の完成度を高めることに喜びを感じるマネージメント型の人間がいるとのこと。
T見くん自身は営業型ではなくマネージメント型であり、営業は苦手なんだそうである。

僕はというと、仮に営業をするとしたら、
クーポン券のようなありきたりのものではなくて、
何か、変なものを売りたい。

Posted by taro at 23:43 | Comments (4)

2006年03月30日

高齢者をターゲットにした情報システム

今日は野村総研の方々と飲んだ。
修士の頃にお世話になった横澤先生と、その同僚の皆様。

高齢者にネット上で証券取引をさせるためのシステムとかを開発しているらしい。さすがだ。

一昔前まで、証券会社の店頭には時間と金を持てあました高齢者がたむろしていたらしい。
ネット取引の普及によって証券取引における高齢者の比率は下がったようだが、
彼らを顧客として取り戻したいそうである。

それから、がん患者のターミナルケアに三次元インタフェースを利用するという話。
ちょっとイメージが湧きにくいのだが、結構前からやっている研究らしい。

コンサルやシステム開発にとどまらず、
いろいろなことを研究しているようである。

Posted by taro at 22:06 | Comments (0)

2006年03月27日

同期飲み

昨夜は高倉蛸薬師の居酒屋で同期の連中と飲んだ。

魚類の専門家のM村くんによる刺身の生物学的分類から始まって、
興味深い話をいろいろ聞かせてもらった。

メディア露出度の高いI田研のヨータンから、プレスリリースの方法をいろいろ教えてもらった。
うちの研究室ももっと新聞社とかに情報を流していった方がいい。
共同研究を始めたとかでも、発表しておいた方がいいのだろう。

高校教師をしながら三年でPhDを取ったF岡くんが教えている京都市立堀川高校は「スーパーサイエンスハイスクール」というのに指定されていて、
カリキュラムの編成に大学並みの自由度があるらしい。
先生がゼミを持てたりするとか。
F岡くんは自分のゼミで、20人くらいの生徒にコンピュータシミュレーションを教えているそうだ。

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2006年03月08日

鎌倉のIT系ベンチャー企業、カヤック訪問

鎌倉に本社を構えるIT系ベンチャー企業、カヤックを訪ねてきた。

社長の柳澤さんとは以前、一緒にニューヨークをまわったりしたのだ。
いつか東京に来た時に寄ってみてよと言われていたので、
今回、お邪魔することにした。

鎌倉は昔から好きな場所である。
江ノ電とか、子供の頃、大好きだった。

横須賀線の駅を降りて、鎌倉時代から続くメインストリートの若宮大路を上がり、
路地を入って材木屋さんの隣、ビルの三階。

仕切りのない大きな部屋で、
十五人ほどの社員さんたちががやがやと仕事している。

柳澤さんは部屋の中をあちこち移動しながら打ち合わせしていた。

僕に気づいて、おお元気、とか言いながら、皆さんに紹介してくれる。

お仕事中申し訳なかったが、社内を見てまわらせてもらった。

「ここが開発。ここがデザイナー。ここが管理」

それぞれ四、五人くらいで仕事している。

もちろん、部門ごとに区切られているということはなく、
ひとつの大きな部屋の一角ずつで行っているのである。

開発者の皆さんはエディタを広げていた。
システムは主にPHPとFlashで作っているらしい。

部屋の反対側はデザイナーさんたちの席。
魅力的なサービスにはデザインが大切である。

サービスを運用していく企画と、
きっちりしたシステムを作る開発者と、
魅力的なコンテンツにするデザイナー。
それらを支える総務・経理・人事。
そんな人々が集まって会社は成り立っているというのを一部屋で見渡すことができて、
とてもよく分かった。

いくつかのプロジェクトに関して説明してもらった。

「絵の測り売り」は、面積で絵の値段が決まるという試みで、
芸術作品の価値付けに関する既成概念に挑むサイト。

「ブログデコ」は自分のブログに様々なアニメやゲーム、
料理のレシピなどを貼り付けられるサービス。
これは一年ほど前に遊びとして作り始めたそうだが、
いろいろ蓄積していくうちに、
いくつかの企業がこれを広告媒体として使えることに気づいたようで、
問い合わせが来るようになった。

ブログパーツを作っている会社はカヤックの他にもあるが、
これだけたくさん作っているのはここだけではないかという。

「モビゾー」は携帯電話で撮影した動画をメールで送るだけで、
ウェブから閲覧できるようにするサービス。

これらの自社サービスは昔からいろいろ開発してきたそうだが、
最近では持ち込みというのも増えてきているそうで、こちらも興味深い。

何かというと、個人でサイトを運営していた人がカヤックの社員になって、
プログラマーやデザイナーの助けを借りてサイトを大幅リニューアルするというパターンである。

その一例が「ハウスコ」。
個人が敷地等の条件を登録すると、
何人もの建築家がコンペ形式で案を出し、
気に入ったものがあれば施工を依頼できるというシステム。

もうひとつは「総務の森」。
全国の企業で総務をしている方々のためのポータルサイト。

システムを運営しているS本さんは元々は社会保険労務士だそうだが、
自分でこのサイトを立ち上げ、ずっとひとりで運営してきた。
しかし、ユーザ数が増えてくるにつれて、
もっと良いサイトにしたいという欲求が強くなってくる。

そこでS本さんはカヤックに入社し、
プログラマーやデザイナーとグループを組み、
目下、総務の森の拡張を進めている。

カヤックはメディアにもよく登場しているので、
そういった機会にサービスを宣伝できるというメリットもある。
集積の力である。

そんなこんなでいろいろなサービスが日々生み出され、
拡張されていっている。

肝心の収益モデルには、以下の四つがあるそうだ。

【マッチング】

人と人が出会う場を提供し、そこから生み出されるビジネスから利益を得る。
カヤックの場合、「絵の測り売り」「ハウスコ」がこれにあたる。

【レベニューシェア】

電子商取引のサイト等を運営し、収益の一部を得る。
カヤックでは「バイズ」という電子商取引のサイトがこれにあたる。

【広告】

多数のユーザを背景に、企業の広告から収益を得る。
カヤックでは「総務の森」「ブログデコ」がこれにあたる。

【ASP提供】

自社でASPを開発し、売り込む。
カヤックでは「モビゾー」がこれにあたる。

どのモデルも手堅く収益を上げているらしい。

夕方、柳澤さんは今日が結婚記念日だとか言って帰ってしまったが、
社員の皆さんと近所の喫茶店に食事に行き、
グラタンなどを囲みながら雑談した。

企画を担当しているS木さんは去年の四月に新卒で入ったそうだが、
整理法のマニアだとかで、
ありとあらゆるスケジュール管理や書類整理の本を読みまくったあげく、
やはり、野口悠紀雄の超整理法が一番すごいという所に行き着いたそうだ。

僕もそういった話は好きな方なので、
効率的な手帳の利用法などについて熱く議論した。

こんな感じで皆さんでよく夕飯を食べに行っているらしい。
社員同士の仲が良さそうで、とても楽しげな会社であった。

海辺にも部屋を借りていて、それは「遊び場」と呼ばれているとのこと。

夏には特に楽しそうである。


カヤックのページ
http://www.kayac.com

カヤックの自社サービスいろいろ
http://www.kayac.com/service/

Posted by taro at 23:59 | Comments (0)

2006年02月04日

UC Berkeleyの学生さん

カリフォルニア州立大学バークレイ校(UC Berkeley)の学生さんたちと合同ワークショップが行われ、
なかなか面白いイベントでした。

終了後、イタリア料理店で打ち上げがあり、
世界各国から集まっている優秀な学生さんたちとお話できました。

世界で最初の電子計算機を作ったと言われているJohn Atanasoffはブルガリア系アメリカ人で、
ブルガリアではもっとも優秀なコンピュータサイエンスの学生に彼の名前を冠した賞が贈られるそうですが、
それを受賞したという学生がいて、しかもブルガリアではコンピュータサイエンスが一番人気の学科らしく、
ひょっとしたらブルガリアで一番賢い学生ではないかと思われる彼、Preslav Nakovといろいろお話しました。

Preslavが現在関わっているのはBioTextというプロジェクトで、
バイオ関係の文書から知識発見を行うシステムを開発しているそうです。
最近、NSFから840,000ドルの研究費を獲得したとか。

バイオ関係の文献からの知識発見といえば、
単語間の間接的な共起関係からマグネシウムと偏頭痛の関連を発見したと主張している論文があり、
昔読んで面白いと思ったのですが、
あんなのはたまたま見つかっただけで、再現性もないのでダメだと言っていました。
それを越える手法を目指しているようです。

Preslav自身はこれまで計算言語学の研究を主に行ってきたようで、
機械翻訳のベンチャー企業でインターンをしていたこともあるそうです。

最近の機械翻訳の世界ではGoogleがその膨大な例文集から5-gramを作り、
コンペティションで圧勝しているとか。
一ページの中国語の文章を翻訳するのに丸二日かかるそうですが、
出来上がった結果はまさに完璧。人間が訳したとしか思えない文章だそうです。

大規模コーパスの登場まではUniversity of South Carolinaの研究室が強かったようですが、
今後は大きなデータを持たない大学は企業に太刀打ちできなくなっていくのではないかとのこと。

巨大データを扱う技術、たとえば高速な検索技術の方が重要になってきて、
翻訳のアルゴリズム自体は進歩していないのではないか、と嘆いていました。

もうひとつ、Preslavから聞いた面白い話。

イギリスのカジノでは最近まで、
ルーレットに投げ込まれた玉の軌道をコンピュータシミュレーションで計算し、
止まる場所を予測して勝率を上げるということが認められていたそうです。
完全な予測は無理でも、当たる確率を上げるだけの効果は十分あったとのこと。
これもすごい話です。

Posted by taro at 20:41 | Comments (0)

2005年12月30日

初日の出の前に

実家は読売新聞を取っていた。

その四コマ漫画である「コボちゃん」は、
ひねくれ者の僕にはちょっと物足りなく感じる、ほのぼの系の漫画である。

だが、ある年の年末、なかなか良い話があって、印象に残っている。

読売新聞を取られている方は、記憶されているかも知れない。

年末、コボちゃんとそのおじいちゃんが道を歩いている。
近所の人たちと会って、初日の出を見にいくという話を聞かされる。

彼らと別れた後で、コボちゃんのおじいちゃん、

「みんな、初日の出ばかり見に行きたがるが……」

と呟き、

「一年の最後の夕日も、なかなか良いものだよ」

と、沈む夕日に手を合わせる、という話。


たしかに。良いかも。

Posted by taro at 20:49 | Comments (0)

2005年12月28日

海棲哺乳類

一昨夜、専攻の忘年会があった。

うちの専攻には実に様々なことを研究している人たちがいるが、
ある研究室ではGPSや音響データを使って、水棲動物の行動を追跡している。

たとえば絶滅危惧種であるジュゴンの混獲を防ぐため、
鳴音を使ってその行動を追う「ジュゴンモニタリング」という研究など。

その研究室の学生さんと話していて、
ジュゴンの肉はうまいのだろうかという話になった。

「うまいはずですよ。うまくなければ、絶滅しかけたりしない」

もちろん、現状では食うなんてもっての他なのだが、
ジュゴンの養殖場というのができたら、ちょっと面白い。

ジュゴンファーム。

水中トンネルを歩いて愛らしいジュゴンの姿を眺め、
「ジュゴン、かわいいー」とか言った後で、
そのステーキを食べる。

うまくいったら、沖縄の新名所になるかも知れない。

欧米人は動物の保護を訴える時によく知性の度合いを問題にするが、
高い知能を持つとされるイルカと違って、
ジュゴンの知能は牛程度ではないかと言われている。
なにしろ、海牛類と呼ばれているくらいである。

系統的には、ジュゴンの先祖は象と近いそうだ。

一方、トドやアシカの先祖は熊に近いらしい。

イルカやクジラの先祖はあまりよく分かっていないそうだが、狼のような形をした肉食性の偶蹄目ではないかという。

海棲哺乳類にもいろいろある。


ジュゴンを守ろう!
http://www.wwf.or.jp/wildlife/dugong/

Posted by taro at 23:32 | Comments (0)

2005年12月01日

AT&Tの研究所

ニューヨークで国際会議に参加した後、隣のニュージャージー州にあるAT&Tの研究所を訪問し、研究発表してきた。AT&Tはアメリカの電話会社である。

会社の規模が大きいため、かなり自由な雰囲気の研究所のようだった。活発な議論ができて、非常に面白かった。

訪問に際しては、AT&T研究所に一年間滞在されている奈良先端の波多野先生、その受け入れ研究者であるシーハム・アメール=ヤヒア博士、それからデータベース部門の責任者であるディヴェッシュ・スリヴァスタヴァ博士に非常にお世話になった。

発表後、研究所近くのマレーシア料理のレストランでご馳走になった。
ニューヨークは東京と違って、車で三十分も走れば木立が延々と続く、鄙びた風景が広がっている。マレーシア料理レストランのあるフローラムパークという街も、三階建て以上の建物がほとんどない田舎町である。住民は皆、車でショッピングモールまで買い物に出かけるため、それ以外の場所は商業的に発展しないのだと思う。

フローラムパークからマンハッタンに帰る電車の中では、シーハム・アメール=ヤヒア博士と一緒だった。
彼女は三十代前半の女性研究者だが、フランスで学位を取って、AT&Tの研究所は七年目。研究テーマはXQueryに情報検索(IR)の側面を持たせること。現在は、W3CにおけるXQueryのワーキンググループのメンバーも務めている。
波多野先生いわく、

「アメリカは若い人にどんどん重要な仕事をやらせるんだよ。うらやましい」

W3Cのワーキンググループがどんな形で仕事を進めているのか、本人に聞いてみた。

「最初のきっかけは、アメリカの国会図書館に大量のXMLデータがあると聞いて、問い合わせしたことだったわ。むこうの担当職員はどちらかというとエンドユーザだったけれど、一緒にXQueryに基づく検索システムを計画したの。ところがすぐにXQueryでは十分な検索ができないことが分かった」

「どういうところがですか」

「たとえばエレメント内における単語間の距離に基づく検索といったことができない。逆に、異なるエレメントに含まれる単語間の距離は、構造のどのレベルまでを考えるかによって変わってくるから、従来のIRの手法をそのまま適用するわけにもいかない。それで、XQueryにIRを組み込む必要を感じて、ドラフトの作成に取り掛かったの。それが七月のことだったわ」

その後、AT&Tの代表としてワーキンググループに加わったという。

「理論的に楽しい部分が終わってしまうと、あとは地道に詳細を固めていく作業。商品ベースで考える他社の人たちと話をまとめていかなくちゃならないわけ。彼らは完全で趣味のいい(neat and complete)言語を作ることには興味がなくて、『こんな機能は我々の顧客は使わない』とか言って、仕様をどんどん削っていってしまおうとするの。それはそれで面白い経験だったけど」

「ワーキンググループの中ではそういう人たちの割合は高いのですか」

「10人のワーキンググループメンバーのうち、8人がそういう考え方よ。研究者的な関わり方をしているのは、私ともうひとり、大学から来ている人だけ。だって、ワーキンググループに加わるためには、企業なら年間五万ドル、大学でも年間五千ドルの購読料を払わなくちゃならないんだから。メリットが無ければなかなか入る気になれないでしょう」

「AT&Tは例外ですか」

「うちは『未来を拓く仕様の策定に関わっている』ということを対外的に見せたいっていう側面があるから」

「いい会社だ」

「そう」

ニュージャージーとマンハッタンの境であるハドソン川に面した駅で僕らと別れた後、ジャズダンスの授業を受けに行くと言っていた。

「これがニューヨークのいいところよ」

仕事もプライベートも充実させている感じの方であった。

Posted by taro at 00:48 | Comments (2)

2005年11月02日

SKKを使ってみた

研究室のN田くんのPCで作業させてもらったところ、かな漢字変換ソフトがなぜかSKKだった。

我が研究室にはSKKのヘビーユーザが(少なくとも)二名いる。

僕は初めて使ってみた。

Shiftを押して大文字化することで、漢字とひらがなのどちらを使うかが切り替わる。

ATOKやIME、Cannaとは考え方が全然違う。
区切り方をユーザが明示的に指定するので、
システムには漢字の読み方の辞書だけが入っていれば良いだけということになる。

逆にいえば、送り仮名をしっかり知っていないと使いこなせなそうだ。

N田くんいわく、

「ひらがなをたくさん打つときはめっちゃ速いですよ。余計な改行を押さなくていいし」

さらに、英語の綴りからカタカナに変換する機能がついているのもポイントらしい。

directoryと打ち込むと、「ディレクトリ」に変換されるとか。
englandと打ち込むと、「イングランド」に変換されるとか。

これをATOKで無理やり実現しようとすると、単語「directory」に対して、読み方が「ぢれcとry」、
という風に登録すればいいのだろうか。

ちょっと気持ちが悪い。

実際に試してみたが、うまく変換されないようである。
読み方にアルファベットが入っていると、無理なのかも知れない。

Posted by taro at 12:41 | Comments (3)

2005年10月02日

ロボットにとってのシンボル

東大の情報学環の國吉先生の研究室にて、面白げなテーマが扱われているのを知った。

いわく、「ロボットにとってのシンボルを問い直す」。

人間が天下り的に与えたシンボルから、ロボットの行動に根ざしたシンボルへ。

たしかに、ロボットが人間と同じようなシンボルを使う必要はまったくないだろう。

たくさんのロボットを作ってコミュニケーションさせた時、そこから自然発生的に生まれてくる言語はどんなものだろう。

Posted by taro at 17:41 | Comments (0)

2005年09月30日

ニューヨークで脳とかの研究をしている女の子たち

ニューヨーク大学のCenter for Neural Scienceという研究所を訪問し、そこで知り合った日本人の女の子たちと、グリニッジビレッジのニッカボッカという喫茶店でお茶をした。

あきこさん、しょうさんといって、二人とも女ひとりでニューヨークに乗り込んでいるだけであって、なかなか個性的な方々であった。

あきこさんは認知科学が専門で、脳波やfMRIを使って視覚のワーキングメモリを調べている。
学部時代はオレゴンの大学にいたそうだが、その時の研究室はニコチンが集中力を高める働きの研究でフィリップモリスから研究費もらっていたとか。

しょうさんは神経生理学が専門で、NMDA受容体の増減が記憶に与える影響を研究している。
学部の一回生の時だけ京大にいたのだが、前期だけ通ってやめて、アメリカに来たらしい。親には怒られたそうだ。

僕の同行者はIT系企業の社長であるヤナさんと、別の会社の重役であるY。
脳内の情報をどれだけ取り出すことができるのかというのに興味があり、いろいろ話を聞いてまわっている。
個人的な興味が90%、次世代のITサービスを考えるという名目が10%くらい。

「人が頭の中でイメージを思い浮かべる時、視覚野が活性化しているという話がありますよね。それなら、視覚野にセンサー当てて、その人が今どのような映像を思い浮かべているか、読み取ることができるようになるんでしょうか」と、ひとまず訊いてみる。
「そりゃまだ無理ですね」とあきこさん。「脳波ってのはたっくさんのニューロンの活動の平均だから。そんな細かいところまでは見れない」
「fMRIは?」
「それもそこまで細かくない」
しょうさんがテーブルの上に拳を並べ、手首のところで合わせて丸い形を作った。
「脳って、これくらいのサイズなんです。これだけの中に、ものすごく複雑な中身が詰まっている。私はいつも電子顕微鏡で見ていますけど、それでもものすごく複雑なんです」

拳二つというのは、思っていたより小さい。大脳だけなら、そんなものなのかも知れない。
脳がとてつもなく複雑なシステムであるというのは、分かる。しかし、たかだか有限個の原子から構成されていることには変わりがない。それらが集まっただけで、そこから意識や感覚や思考といったものが生じてくるのは、本当に不思議なことだ。

「ニューロンって結構太いから、電極は刺せますよ。そしたらいろいろ情報取れるんでしょうけど」しょうさんが補足する。
「人間での実験は無理ですか」
「イスラエルならできるかも知れません。あそこは倫理委員会が無いっていうか。何でもオッケーだから」
脳にチップを埋め込む研究とかも、がんがんやっているらしい。
「動物実験だと、いろんなことがやられてますよ。暇系な研究が結構あって。『ネズミにとってベッドとか何か』というのを明らかにしようとする研究とか」
「それは暇ですねー」とあきこさん。
「結局、囲われているということがベッドの条件だってことになったらしいんですけど」
「犬とかでも狭いとこ行くしね」
「それ使って、犬を騙せたりするのかな。全然寝心地悪いのに、なぜかそこに向かってしまうという」

「暑い・寒いと考えるだけで車を右に曲げたり左に曲げたりというのはできますか」Yが尋ねる。
「どうでしょう。暑い・寒いは、脳内では似た変化ではないかと思いますけど」
「なるほど。じゃぁ、赤いと丸いなら?」
「うーん」
「キーボードだって、単なる慣れでしょう? あんなの、昔は全然使えなかったじゃないですか。脳インターフェースだって、そのうち慣れるのと違いますか」Yが食い下がる。
しょうさんはちょっと考えて、「ビデオゲームをプレーしている時に車を停めるのは大脳だけど、実際の運転で車を停めているのはもっと下の部分じゃないのかな」
「暑い・寒いで運転するって話、私は将来的にはできると思う」とあきこさん。「だけど運転の動作には意識的な部分と無意識的な部分があるから、その無意識的な動作をどう代行させるかが難しいところだと思う」

そこからさらに、記憶の話になった。デジャブ(既視感)が生じた時、脳で何で起きているのかという話。しょうさんが面白い仮説を聞かせてくれた。
「デジャブは、見た時と意識した時との時間差だという説を読んだことがあって。つまり、実はほんの一瞬前に見たから記憶があるのに、ずっと前に見たことがあるというように捉えてしまっている。そんな状態がデジャブじゃないかと言うんです」
「それ、面白いですね」
「デジャブって、ありえないことを見たという風にはならないじゃないですか。ニューヨークにずっと暮らしていた人がアマゾンに行った時、『私、ここに来たことがある』という風にはならない。むしろ、来たことがあるかも知れない、起きたことがあるかも知れないという状況でのみ、デジャブは生じる」
だからある程度大脳での処理を経た上でデジャブは感じられているのではないか、というのがしょうさんの考えのようだ。

最近思い付いた考えを言ってみる。
「記憶って、命題の形で蓄えられているんじゃないかって思うんです。目で見た光景の記憶とかって、思い出すたびに映像を作り出しているんじゃないでしょうか」
それに対し、しょうさんがコメント。
「そもそも記憶というものは、思い出すたびに変えられてしまうと思うんです。思い出すたびに、思い出した時の情報が入っていく。たとえば耳に入っていた音とか。だから、一番確かな記憶は、思い出したことのない記憶なんです」
「それって記憶じゃないじゃん」ヤナさんがつっこみを入れる。「逆に、絶対忘れたくない記憶を刻みつけておくとか、できるのかな。ボタンを押したらすぐに思い出すとか」
「それ、流行りそうですね」と僕。
「痴呆症の老人がボタン押したら、息子を急に思い出すとか。快楽中枢に繋げて、息子を見た途端、喜び出したりとかね」
「面白い。同じことを恋人とかにも要求されそう。入れ墨の代わりに」

そんな感じで、とりとめもなく雑談した。
なかなか興味深いニューヨークの過ごし方であった。

Posted by taro at 21:05 | Comments (2)

2005年09月03日

表現主義とアート

メディアアートといって、デジタル技術を用いて芸術を表現するという分野がありますが、
我が研究室の教授は結構芸術が好きのため、先日、京阪奈の情報通信研究機構の一室にて、
京都市立芸大の砥綿先生、京都嵯峨芸大の松本先生、同志社女子大の森先生といった芸術系の先生方をお招きして、
合同ミーティングなるものが開かれました。

そのミーティングのあと、居酒屋で行われた懇親会にて聞いた話。

日本ではアートという言葉がドイツ表現主義の意味のようになってしまっているが、
欧米におけるアートという概念はもっと広い。

表現主義は英語だとExpressionism。
Impressionism(印象派)に対して、内面から湧き起こってくるものを大切にしようという主張であり、
20世紀初頭のドイツで生まれた潮流である。

外界を観察しそれを忠実に描くのがImpressionism。
内から湧き起こってくるものを表現するのがExpressionism。

日本の小学校の美術の授業では生徒にとにかく絵を描きなさい、造形を作りなさいと指導する。
その一方で、著名な芸術作品を分析し、批評するという機会は少ない。

印象派の作品などはかなり科学的な方法論に基づいて作られているのに、
それを「読む」という作業を怠っているように思われる。

イギリスのテート・モダーンという美術館で行われている教育活動では、
展示されている絵を参加者にひたすら批評させ、その後、その絵を模写させるという課題がある。

Posted by taro at 14:42 | Comments (0)